CSA農家の矛盾とジレンマ:日米のCSA比較【卒論まとめ②】
まとめ①では導入部の要約をお届けしました。
今回は以下の内容をお送りします。省略した部分も多いため、ご不明点などは個別にお尋ねください。
2. 調査方法
アメリカ・ケンタッキー州の4つの農場と日本の9つの農場を対象に2017年9月〜2018年10月にかけて聞き取り調査を実施した。
質問項目は以下の22項目。
・農地面積
・有機認証の有無
・他の生産者との協働
・CSA開始年月
・CSAの年間スケジュール
・CSA会員数
・CSAシェアの内容
・ピックアップポイントの数と形態
・CSA会員一人当たりの価格
・支払い方法
・頻度
・品目数
・労働者人数
・ボランティア人数
・CSAが全体の売り上げに占める割合
・CSA以外の販路
・会員募集方法
・ワークシェアの有無
・会員とのコミュニケーション方法
・会員の継続率
・運営の課題
・今後予測される変化
3. 考察:CSAの原則と運営実態との乖離
CSAにおいては、消費者の支払い方法から収穫物の分配の方法まで慣習的に様々な原則が設けられている。
しかし、今回調査を進めていく中で日本・ケンタッキーのCSAともに、原則と実態がかけ離れている側面が明らかになった。
例えばケンタッキー州のあるCSA農家は半年以上休みをとることができておらず、仕事はストレスフルだと訴えたが、これはCSAの元来のビジョンとはかけ離れているように思える。
そこで今回は、価格設定、分配方法、梱包、支払い、ワークシェア、コミュニケーションと消費者教育の6つの側面についてその原則と実態の乖離を検証した。
3-1. 価格設定
【原則】
CSAでは生産におけるコストをカバーし、農家側に適正な収入が入るよう価格設定をすることが掲げられている。
【実態】
ほとんどの農家は自らの労働コストを価格設定の考慮に入れていない。
実際の価格設定方法の例としては下記が挙げられた。
・世帯当たりの年間食材予算をもとに価格設定
・普段対面販売している際の単価をもとに価格設定
3-2. シェアの分配方式
*シェア:会員が受け取る野菜セット
【原則】
CSAでは会員が畑または任意の場所に設置されたピックアップポイントへシェアを取りに行くことが求められる。
【実態】
ケンタッキー州のCSA農家は3/4が個別宅配を全く行わず、すべてピックアップポイントで分配していたのに対し、日本のCSAのほとんどが農家自身が車での宅配を行ったり、宅急便で会員に発送していた。
日本では農場でのピックアップが地理的に難しかったり、ピックアップポイントの設置に周囲からの理解が得られないといった課題があった。
3-3. 包装・梱包
【原則】
CSAの分配方法は下記の2種類に大別される。
①「マーケットスタイル」
マルシェのように各種の野菜を平積みに並べもしくはカートに入れ、ビュッフェスタイルで会員が指定された数の野菜を取っていく受け渡し方法。
基本的に野菜は包装しない。
②「野菜セット」方式
一人分を農家側が袋や箱に梱包する。会員はそれを受け取るのみ。
一般に①の方が生産者との会話が生まれ、CSAの本来のあり方としてふさわしいとされる。(Small Farm Central, n.d.)
【実態】
ピックアップを行う6つのCSAのうち、①のマーケットスタイルを採用していたのは2箇所のみにとどまった。
多くのCSA農家が運営の中でももっとも時間がかかるものの一つとして包装・梱包の作業を挙げていた。
3-4. 支払い方法
【原則】
伝統的なCSAでは農家が生産を始める前に、会員が1年などCSAが継続する期間分一括で支払いを行うことで農家の収入を保証する。(USDA National Agricultural Library, 2018) このリスク共有の考え方がCSAの核であると言われることも多い。
【実態】
ケンタッキー州のCSAのうち半数が分割での支払いも認めていた。日本でもほとんどのCSA農家は一括支払いに固執しておらず、毎回のシェアの分配時に支払いを受け取るという農家も存在した。
日本のCSAにおいては75~100%という高い継続率に見られるように生産者と消費者の間に強い信頼関係が築かれており、一括払いに固執せずとも会員数確保がそのまま収入の保証につながっているということが今回の結果で示唆された。
なおケンタッキー州・日本のどちらにおいても支払いの確認作業が農家の負担になっているという声が多く聞かれ、これは特に分割払いや毎回の支払いを受け付けている日本の農家で顕著であった。
3-5. ワークシェア
【原則】
CSAは元来コミュニティによって形成されるものであり、多くの場合は農家と共に運営に携わるボランティアの中心グループが存在していた。(Pole and Gray, 2013)
「ワークシェア」とは毎週数時間作業を手伝うことでCSA会員費用を割り引くボランティアの形態をさし、ワークシェアの存在によって会員は農場との結びつきを強めると言われる。(Kelley et al, 2018)
【実態】
多くのCSA農家はワークシェアについて知らなかった。ケンタッキー州でワークシェアを導入していたのは1つのCSAにとどまった。
一方日本ではワークシェアという言葉を使っていなかったが、3箇所のCSAで会員がボランティアで作業に参加しており、見返りとして収穫物を受け取っていた。日本のCSAでケンタッキー州よりも多くのボランティアが見受けられたのは、その面積の狭さから目が行き届くこと、また平日でも時間が取れる定年後のボランティアが多く存在することも要因として考えられる。
3-6. コミュニケーションと消費者教育
【原則】
Cone と Myhre (2000, p. 196) は会員がCSAを辞める原因について「生活様式の変化、選択肢の少なさ、不便さ」を挙げると同時に、会員がCSAのスタイルに生活や思考を合わせていくことの重要性について述べている。
そのためにも、シェアと一緒にニュースレターを配ったり、会員が農場を訪れる機会を作るといった会員教育の取り組みが大切だとされる。(Kelley et al, 2018)
【実態】
ほとんどのCSAでは会員に向けてオンラインまたは紙媒体で農場や収穫物の最新情報を頻繁に発信していた。
多くのCSAでは会員向けのイベントを開催していた。(農場ツアー、持ち寄りパーティー、料理教室、子供向けの食育セミナーなど)一方で、中にはスペースや施設の不足やアクセスの悪さ、さらに魅力的なコンテンツを作ることの難しさや人を呼ぶことの心理的プレッシャーからイベントの開催に苦労している農家も日本・ケンタッキー州の両地域で複数みられた。
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まとめ①はこちらのリンクから
まとめ③はこちらのリンクから
それぞれご覧ください。
※参考文献はまとめ③の末尾に掲載しています。
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