虚無
青空に輝く半月
窓から見える
木々の上に
ぼんやり 現れる
風にそよそよ
夜を待つ
天井から吊るされたペンダントライトが
食卓を
からっぽのワイングラスを
さみしく照らす
若者がかき鳴らす
カーステレオが遠くに響き
外と内 内と外
境界がにじんでぼやけていく
窓のすき間から
冷たい空気が
するりするりと
忍びこみ
夜のけはいに
身をしずめる
どこもいたくないのに
心が泣きたいとわがままをいう。
涙は一滴もでてこないのに
心が泣きたいと嘆いている。
なにも失っていないのに
心がなにもないと叫んでいる。
そうして
今日も、今日の終わりに気づかぬうちに
明日がまたやってくる。
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チーズをぱくぱく食べながらワインを飲み干し、
ふと窓の外を見ると、とってもきれいな半月が浮かんでいました。
今住んでいるアパートからは、背の高い新緑の栃木がたくさんみえるのですが、その葉っぱが風に揺れていて涼しげで、
あっ、この瞬間をキャッチしたいと思い、
パソコンに向かいました。
当初、「上弦の月」をテーマに書き始め、食卓を照らすペンダントライトの暖かいイメージと対比させようと考えていました。
ところが、最近夜が長くなってから(ドイツはいま10時半頃まで明るいです)、カーステレオをガンガンに鳴らしながら叫んでいる若者の声がよくするのを思い出し、なんだか若さがうらやましくなった気持ちを描きたい気分になりました。
おそらく、若者の叫び声がきっかけで、20代にはじめてドイツに住んだときに夏の明るい夜に喜々として外に遊びにでかけていた自分と、30代になってもう一度ドイツに住む機会を得て、楽しみにしていたはずの長い夜の夏に、早く暗くなってくれ、ゆっくり寝たいんだと部屋のなかでぐーたらワイン飲んでる(それはそれで楽しい)自分を対比させたくなったんだと思います。
ただ、最終的には、なぜか「虚無」という現代の孤独について謳うような詩になってしまいましたが。