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夏になるとどうしても読みたくなるあの本


夏。室内にいても日差しは容赦なく照りつける。

普段は空きが目立つ我が家の冷蔵庫も、この時期に限っては清涼飲料水やアイスがそのスペースを陣取っている。

夏の時期、きっとそんな感覚で、いつでも傍らに置いておきたいと思う本が私にはある。


『8月のソーダ水』コマツシンヤ/作(太田出版)


爽やかな表紙が目を惹く。
やはり青や白の配色は夏にぴったりだ。

こちらはオールカラーのマンガ。

作者のコマツシンヤさんは、漫画家としてデビュー後、絵本作家やイラストレーターとしても活躍されている。

私はコマツさんのイラストが大好きだ。
青や緑といった寒色系の色を主体としながら、そのイラストからはあたたかみを感じられるのだから不思議である。

コマツさんが手がけた絵本『ミライノイチニチ』はよく読み聞かせでも使用している。

こちらは未来の世界を舞台にした絵本。
この世界の学校では、無重力遊泳や宇宙語の授業があるようだ。こんな未来だったら楽しそう!
ワクワクが止まらなくなる一冊。

こちらから試し読みができるので気になった方は是非。



そして今回ご紹介する『8月のソーダ水』は、日々の生活を離れ、どこか遠くへ行きたくなった時にうってつけの本だ。

旅行にでも行きたいけれど、年々増していく夏の暑さに挫けて、外へ出かけることが億劫になることもしばしば。

そんなときこそ、本の世界に出かければいいのだ。

夏の暑さを吹き飛ばしてくれるかのような、いわば避暑地のような本である。


舞台は翠曜岬という架空の街。
そこに住む女の子、海辺リサの日常を描く。

翠曜岬のモデルは、エーゲ海のサントリーニ島やミコノス島だそう。いつか行ってみたい。



見晴らしのいい海辺でリサがバイオリンを弾く場面から物語は始まる。

海辺でバイオリン。なんて優雅なんだろう。
と思いきや、リサのバイオリンの腕前は……。

リサがバイオリンを弾こうとするたびに友達が止めようとしている場面が何度か出てくる。
なんとも微笑ましく、クスッと笑える。

なんと言っても、穏やかな海に臨む風景の描写は見どころ。

作者のコマツさんは高知県出身。
海の描写を見るに、きっと幼少から高知の海に親しんでこられたのだろうと想像できる。

私の住む街は山に囲まれた土地なので、海辺の街への憧れや想像が膨らむ。

海、潮風、渡り鳥、自然の豊かさをより一層感じられるような場所なのだろう。



この翠曜岬では岬の灯台が歩き出したり、街全体が海に沈んだりと、不思議なことがたくさん起こる。

大人になってからはファンタジーものを読む機会がぐっと減ってしまったが、こうしてたまに読んでみると、童心に帰ったように空想が広がっていく。

ふと気づけばこの本の世界観にどっぷり浸かっていること請け合いだ。



この本を読んでいると、無性にラムネが飲みたくなった。

家の近くにコンビニがあるが、何となく少し遠出して、普段はあまり立ち寄らないスーパーに歩いて行ってみた。

一本のラムネだけを買って店を出る。

7月上旬、蒸し暑さが漂う季節だけれど、久々に街を歩くと、不思議と心地よさを感じられた。


のんびり歩いていると、いつもは見向きもしていなかった自然が目にとびこんでくる。

名前は忘れてしまったが、子どもの頃よく摘んでいた白い野の花。

アリが列をなしてその花の根元を横切っていく。その行方を見届けたあと、再び歩き出す。

すると、ちょうど翠曜岬にいた、カモメのような白い鳥が視界に入った。

こんなところにカモメがいるはずないけれど、一体何の鳥だろう。と思いながらしばらくの間天を仰ぐ。

こんなふうに、ゆっくりと空を見上げたのは何年ぶりだろう。

物語のなかだけではなくて、自分の周りにもたくさんの自然が溢れている。
それを思い出させてくれるような出来事だった。

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