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【連載】 アニマルバー 『メモリーグラス』 ③






さっきのDJブースから音楽が聴こえてきた。この曲はよく知っているソウル・ナンバーだ。年末の年越しおひとり様ライブにはぴったりの、ジャケットが水族館のようにキレイな魚がたくさん並んでたやつだな。ベスト版のようにも聴こえるが、オリジナルのノンストップ・ミックスで、おうちデスコが楽しめるるところがウレシイ。





一曲目の『スーパースティション』が聴こえるが早いか、DJ自らシャウトしながら踊り出す。
握りこぶしを作りながら、両手を交互に上下する。懐かしい。モンキーダンスか。小刻みのハイハットに被る切れ味の良いギターリフ。更に厚みを増してくるホーンセクション。自然にカラダが動き出す。


お、DJのヤツ、ダンスフロアへ下りてきたぞ。
四肢は長く、食べたものを頬にためる癖があるらしい。一番のお気に入りはバナナらしい。皮を剥きながら踊ってるぜ。これぞホモサピエンスの進化のなりの果てか。デスコのダンスフロアでソウルフルなリズムを取りながら、我が霊長類の最たる進化の一歩手前であるサバンナモンキーの一人舞台だ。
ラスタカラーの帽子をのせて、さすがに軽い身のこなし、跳躍力もある。鮮やかなパンツは真っ青。サバンナの高原によく似合いそうなスカイブルー。さっきのカクテルを飲んでからのあの真っ青は目が覚める。

だけどこんなにノリノリで踊ってくれたら、さすがのヒデキも感激だろう。
子供の頃に一番好きだったのは、なんてったってヒデキだった。ワイルドな容貌と、入りの裏声、子供心にアツいハートを感じていた。余裕で長い足の向こうから出る高音でラテンサウンドを歌うGOひろみや、実力はあるのに出る歌全てが地味でやや乗り鉄気味な野口GOROに比べると、ヒデキは格段にレベルの違う子供たちのアイドルだった。
そんなヒデキが、サバンナモンキーの青さを歌っていたなんて。


さっきのママの話、ぜひ続きが聞きたいもんだ。
「如何です?カクテルのお味は。」
「何だか、不思議な味ですねぇ。痺れるような強さの中に、何か昔の記憶を呼び起こさせるような甘さの余韻が心地良くて。」
「そうでしょう。ここでそれを飲んだ方はみんなそう仰るの。うふふ。きっと懐かしい話がしたくなるんでしょうね。ワタクシも同じ。」
「そのママが恩返しをしたくなる人って、どんな人なんだろう。興味あるなぁ。」
「イヤだヮ、恥ずかしい。
助けてくれたんです。ワタクシがたくさんいじめられている所を。だから後ろ髪を引かれる思いで、お礼にここへ連れて来たんです。
大変気に入ったご様子で、随分長居されて。
だけどある時、ふとお帰りになると言い出されて。こちらもお名残り惜しいんで、せっかくだから、とお土産の箱をお渡ししてお見送りしましたけれど、どうなさったでしょうねぇ。
確か、太郎さん、てお名前だったかしら。でもそれ以来一度も。いつかいらっしゃるんじゃないかしら、なんて。うふふ。」
「でも、太郎なんて名前、掃いて捨てるほど居る。
ん〜、ピーチサワーが好きな人でしたか?
それとも...マサカリ担いで来ました?
アカだらけだったとか?
いや、お母さんが竜ってことは?
もしかして、片目でゲゲゲとか言ってました? 」
「まあまあ、そんなムキにならなくても。
カメがお好きな方でした。確か...浦島の方からだったと。」



〈今日のBGM〉







あはん♥






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