【企画参加】 金魚鉢 〜 #シロクマ文芸部
金魚鉢から見る部屋は、小さいからと言うばかりでなくさらっと全体を同時に確認できる。人間の場合は目が顔の正面についているのだから頭の後ろは死角になるが、僕らの場合は首など回す必要もない。常に視野は320度だ。借金で首が回らない、などということもない。水の屈折で天井が歪んで見えるのは今に始まったことではないけれど、端の方はいわゆる魚眼レンズというやつでいつでも湾曲して見えた。
ちぃと前クロのやつが、この部屋のカノジョのお着替えシーンをもっとハッキリ見てみてぇと、
「オレは目が出てるからお前らよりはよく見えねえ。きっと外へ出りゃあ水の屈折がない分はっきり見えるかもしれねぇ。」
と言って興奮しながら金魚鉢の外へイキやがった。白いパンティ一丁のカノジョは小さく、きゃっと後退りながら、大きな乳房を露わにしたままクロのやつを両手で掬って、するんと鉢へ戻してくれた。
「やべぇ、両手で掴まれちまってイキそうだぜ。」
それでどうだったのさ。あのこぼれて落ちちまうんじゃないかといつも心配する乳房、お前の出目金に焼き付けて来たのかい?
「いやぁ、生憎息の根止まりそうで焦点が合わず朦朧としてたな。まぁ、あの大きさじゃ目の中に入れたら痛えしな。」
僕らの場合、水の中に居る分には何でもはっきり見えて、ふわふわ浮いてるエサだって正確にお口でぱっくり咥えられるけど、地上へ出てしまえばそこは異次元。視力だって極度の近視になる訳さ。
この部屋のカノジョは帰りが遅い。部屋はいつもブルーに包まれている。どうやら毎晩カクテルを作って出すのが仕事らしい。そのカノジョの彼氏はピアニストで、ほろ酔いながらここに来るといつでもカノジョの体をそのよく動く指で愉しませる。このブルーの部屋でピアニストがその指先でつまむさくらんぼは真っ赤だ。その時二人が紡ぎ出す協和音は、互いに溶け合って僕の耳に快く響く。こう見えても耳はイイ。
ふと、カノジョが金魚鉢の僕を見てウインクを投げた気がした。僕にはまるでそれが愛の唄に聞こえた。どうも二人の体がゆらゆら揺れているように見える。これはストレスのせいかもしれない。だけど心はうずうずと華やぐ。カノジョが感極まって昇天するのをいつまでもこの金魚鉢の中で見ていられるのなら、眠れなくても構わない。
まぶたにキスして、なんて言わない。そして口をパクパクしながらおねだりするよ。
「どうぞそばに置いておくれ。」と。
〈1000字〉
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インスピレーションはこちらから。
以前にもこんなコラージュしてましたん。
今回はこちらに企画に参加しておりますん。
あはん♥