ねえ、覚えてる?

長いようで、あっという間に過ぎていく甘酸っぱいあの季節。
大人になったと思っていたけれど、まだ、なにも知らなかった。2度と戻れないあの頃の私たちは15歳だった。
私があなたに告白した12歳、最後の秋。

あなたは、「お互いを傷つけあうからやめた方がいい。」最初は、わからなかった。綺麗事にしか聞こえなかった。まるで、柵の向こうにある危険地帯に、柵を破って入るようなものだってあなたはわかっていたのかもしれない。あるいは、私を遠ざけるためには、最善の言葉だと思ったのかもしれない。私は信じたくなかった。だって、この5年間、晴れの日も、雨の日も、雪の日も、ずっと仲良く時間を過ごしてきたのは、変わりもなく私たちだった。同じクラスだった4年間、そして初めて違うクラスになった5年生、その年一年が、どれだけ苦痛で、私はあなたが好きだったんだって初めて気付かされた。だから、その柵の先にあるものは、危険地帯じゃなくて、幸せだと信じていたのに。きっと、同じ気持ちだって信じたかったのに。

もちろん、あなたが言うように、ケンカも沢山したし、気に入らないことだってたくさんあった。泣かされた日も少なくはないし、一緒に怒られた日も多かった。昼休みになればサッカーをした。2つも同じ習い事をしてた時期もあった。冬になれば、校庭で雪遊びを。大荒れの日は、体育館でドッチボールだってしたのに。私が友人関係に悩んで泣いていたら、1番最初に話を聞いてくれたのは他でもなくあなただった。覚えてる?私は、あなたを失うのが怖かったし、こんなに楽しい友達を持ったのは初めてだって、思って疑わなかった。

「嫌いなら嫌いってはっきり言えばいいじゃん。なんでそんなに曖昧にするの?」
それが、私がその時言えた精一杯だったのに、全てはあっけなく終わり、二人の間に”沈黙”が始まった。冷たい冷ややかな風が流れ、お互い口を紡ぎ、威嚇しあってる。そんな冷たい春を迎えて、中学生になった。その”静かな戦争”はその年の9月まで続いた。同じクラスなのにも関わらず、口を開けばお互いの足を引っ張り合う。あなたの斜め後ろに座っているだけなのに、あなたから仕掛けたり、こっちから仕掛けたり。私は、たとえどんな言葉でもかけられても、もう一生失ったと思ってた友達が、また自分の世界に戻ってきたことが嬉しかったのかもしれない。あるいは、それがあなただったから、嬉しかったのかもしれない。また話せるようになったことが嬉しい。と思わずにはいられなかった。恋は盲目だというけれど、その言葉は本当に的を得ているように感じる。

秋を過ぎると、昔のようにまた仲良くなった。みんな、私の名前を苗字で呼ぶのに、あなたは下の名前で呼び捨てで呼んだ。それがどんなに嬉しかったか、どうやったら伝わるんだろう?やがて、私に好きな人ができた。あなたじゃない、新しい人。一個上の先輩で、あなたとも仲が良くて、プレイボーイだったから、常に彼女がいた。その時、私とあなたは席が隣だった。「あいつのことが好きなの?」あなたがいつの日か聞いた。私は、「好きなわけないじゃん。」と答えた。本当は、いつもも塾の帰りを一緒に帰ってきて、家に送ってくれる一個上の彼のことが、頭から離れなかったのに。行かないでとまでに、私が家に入ろうとすると、腕を引っ張る。その手の感触だってまだ残っていたのに。嘘をついた。どうせ届かない想いなのだから、わざわざ言う必要ないとそう思った。の割には、私の声が焦っていたのを覚えてる。きっと、私の想いにあなたは気がついてほっとしたのかもしれない。

14歳。またクラスが別になった。今回は隣のクラス。廊下でいくらでも会えるし、話せる。実際にそうしてた。廊下で見かけて、たまに話した。だけど、変化は付きものだ。あなたは別の仲良い女の子を見つけた。その子と、ずっと話して仲良くしてる噂を聞いた。私には関係ないはずなのに、どうしてこんなに寂しいんだろう?それでも私は、2年生を楽しく過ごしたかった。自分だって、友達を沢山作って仲良くやっていることを知らせたかった。自分を大きく見せたかった。だから、廊下では面白くない話をしている時でも、沢山笑って過ごした。やがて、私が口を効かなくなった。きっかけがなんだったのか、思い出せないけれど、ある日「もう、話すのをやめよう。」と心に誓って、その日からあなたに冷たい態度を取った。あなたは、クラスが変われば私以外の子とすぐ仲良くなって、よく噂の中心だった。さらには、仲良くなった子と少しでも距離ができると、その子の周りの友人に、「俺、嫌われてないかな?」と、LINEするぐらいに。私の友達は、あなたを意味わからないって言ったけど、私は内心あなたの気持ちもわかるような気もした。まだ自分がどんな人間なのか、未知数で、可能性も無限に持つ、そんな不安定な年頃の子が考えることだ。人からの評判や、評価は何よりも気になるし、それを知りたいと心の中で強く望んでいる反面、知りたくないと、嫌われたくないと、願いながら1日を過ごす。そんな考えが、根底にあるような気がした。もう話さないあなたとは、私は関係ない。心のどこかではあなたをわかったつもりでいた。本当は何も知らなかったのかもしれない、だけど、一緒に過ごした長い時間が、無意味で、あなたを理解するには到底値しない時間だったということを認めたくなかった。

ある日突然、LINEが来た。「〇〇に、俺嫌われてないかな?」私にもその番が回って来たようだ。私はその〇〇と仲が良かったし、あなたのお気に入りの女友達の1人でもあったその子についてあなたは聞いてきた。私はできるだけ、理解できるように努めた。わたしはあなたを信じたかったのかもしれない。みんなが理解していない、あなたの性格でいいところが沢山あるって、自分はわかってるって、知らせたかったのかもしれない。というか、実際そうだった。話を聞いて、まだ未熟な頭で一生懸命理解して、慰めた。その慰めの大半部分は、同情だったように思う。

いつも私の話を聞いてくれて、いつも励ましてくれたあなただからこそ、今度は自分が役に立ちたいって心から思った。だから、最善の答えを出すために、必死だった。私なりにかけた言葉も、全部あなたには届いていないようだった。納得できていないようだった。でも、私が沢山かけた言葉の中で、私が唯一覚えてる言葉がある。

私が、「そばにいるからね。大丈夫だよ。」て言ったら、あなたは、
「はいはい。」

呆れてる言い方だった。画面の向こうで呆れてる顔が想像できた。同時に、『わかってるから、今更言わなくても知ってるよ。』そんな言葉だって思った。私にとっては、その『はいはい。』は、世界一キラキラしてた言葉だったように思える。『言われなくても、わかってるから。』って意味が大半を占めていることを、勝手に想像して、ドキドキしてた。結局は、呆れてる返事という解釈が一番正しいだろうに、私は本当に盲目だった。

結局、わたしはそれ以来、あなたとは話をしないことを徹底した。そもそも、『そばにいるよ。』発言したのにも関わらず、手放すことを決めたのは、自分がいなくてもあなたが生きていけるように思えてならなかったから。

あなたは友達も多かったし、女友達も、部活も、勉強も、全てがうまくいっている様に私には見えてならなかったから。私も私の生活に集中したかったし、大体、他の子に嫌われてるかどうか心配してくる時点で、私なんて必要ないように思った。それでも、あなたに言われて今までしたことがなかったスマホゲームをダウンロードして、一緒に始めたこと。ディズニーランドで買ってきたお土産を渡したこと(そういえば、そのお土産どうした?もう捨てた?笑)。私が大好きな従兄弟たちの話をしたら、いつも、「またいとこの話?」って呆れてたこと。私は、インフルエンザにかかって、隣の席に座ってたあなたはただの風邪で済んだくせに、クラスのみんなに『(私の名前)からインフルうつされた。』って言って騒いだこと(絶対、私移してないはず・・・)。そうゆうことの全部が、大切な思い出で、これからも二人の絆を繋ぎ止めてくれるから、きっと大丈夫って思ってた。

部活で同じ時間帯に学校の廊下をランニングして、ちょっかい出されても無視をしたし、帰り道友達と自転車に乗っていて後ろからあなたが自転車でに乗りながら大声で、わざと私にかまってきても無視を徹底した。ただ、これ以上、自分の3年間を邪魔しないでほしいと思っていた。もう、あなたとの時間は私の人生ではいっぱいだから、他の人との経験を増やしたいと。2年生から3年生は人並みに恋をした。あなた以外の人と。3年生の冬。もうすぐで、卒業するというと言う時に、あなたは私の友達にこんなふうに聞いてきた。

「最近、(わたしの名前)が、怒ってるみたいなんだけど……」

予想外だった。自分の知らないところで、自分の名前が出されて、それが他でもなくあなたからだったことに、驚いた。私はその子に状況を聞き返した。驚いたし、嬉しかったし、戸惑った。それがなんの目的なのか、全く検討もつかなかった。私はどうしようもなくモヤモヤして、あなたと同じクラスにいる親友に相談した。「こんなことを(あなたの名前)に言われた。もう高校生になるし、すっきりした気持ちで高校に行きたいのに、私は結局どうしたらいいのかな?」私の親友は、私に代わって探ってみると言ってくれた。しかし、それでわかったあなたの気持ちはますます私を混乱させるばかりだった。

「小1の頃から、(私の名前)のことが嫌いだった。」という趣旨の長文が返ってきた。私は理解に苦しんだし、元々怒っているつもりもなかったのに、逆に怒りが湧いてきた。「じゃあ今までやってきたのはなんだったの?」混乱した。濃い霧が私の心に立ち込めるのを感じた。私は、もう本当に関わることをやめようと決心して、さらに行動に一貫性を持てるように徹底した。避けるように生活することに必死だった。ほぼ毎日、朝、顔を合わせたのに、私は必死に友達と話し込んで、その子にあなたが話しかけても、耳さえ傾けなかった。あなたの”嫌われたかも”という心配リストに私が載っても構わなかった。むしろ、載ることを望んだ。

3年間も、頭の片隅にいたのはあなただった。小学校からのこの縁を早く切りたかった。どうしても抜け出せない沼みたいに、何度這いつくばって抜け出しても結局はあなたのところに落ちてしまう。そんな堂々巡りはもう沢山だった。

卒業式の2日前。学級委員でもあったわたしは卒業式の準備を同じクラスの男子とせっせと行っていた。そこにあなたが急に、大声で「お前、(わたしの名前)と付き合ってるの?」私は耳を疑った。(私のこと嫌いなくせに何言ってるの?)そしたら、同じ級長の男子は、冗談混じりの声で「付き合ってねぇーよ。」と言ったらあなたは自分の仕事に戻った。次の日も、私が他の男子と話していたら、「お前ら付き合ってるの?」と。私は本当に変な顔をした。文字通り、変な顔。

意味がわからなかった。あなたは、実際に私のことをどう思っているか、私の親友に聞かれた時、私に絶対教えないことを条件に伝えた。(もちろん、親友に聞くように頼んだのは私で、親友からは『絶対に言い返したり、言及したりしないって約束するなら教える』と言う条件つきだった。それで、親友との約束を優先したわけだが・・・)嫌いなら放っておけばいいのに、どうしてわざわざ自分からかまってくるようなことをするのか理解に苦しんだ。卒業してから、高校生になって、高校が隣ということもあり、毎朝同じ電車で目を合わせた。向かい合って座った。わたしはわたしの仲良い友達がそこに先にいつも座っていたから、仕方なくその子の隣に座ったし、あなたはあなたで友達と通っていた。たまに、あなたが私の友達に話しかけてきても、私は一人、聞かないふりを続けた。私の友達の2人が、あなたと目の前にいるのに、わざわざLINEで話して、楽しそうにして、笑っていてもわたしは1人知らんぷりをしていた。

20歳。久しぶりに見かけたあなたは相変わらず変わっていなかった。わたしもあなたの目に変わらないままで写っていたら嬉しい。目に見えない絆みたいなもので結ばれているような気もする。悪縁なのか、良縁なのか紙一重みたいなそんな絆。谷の崖と崖を、細い細い糸の上に2人で向かい合って立っている感じがする。私はもう怒っていないし、むしろ懐かしくなってこれを書いている。あなたが恋しい。またいつか、わたしの世界に入ってきてくれたらいいのに。そんなことを思いながら。恋しいのに、憎たらしくもあるそんな想いを胸に込めて。
長かったあの季節は、いつの間にか、思い出に変わっていった。
あなたにとってもそうだったらいいのに。

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