喜ノ歌

カナダの端で、日本の半日あとを生きています。クリスチャン|言葉だからこそ表せるもの、言…

喜ノ歌

カナダの端で、日本の半日あとを生きています。クリスチャン|言葉だからこそ表せるもの、言葉でなければ伝わらないものを、言葉にのせて

最近の記事

蜻蛉の翅 せいれいのはね

紅葉から生まれし子らは蜻蛉の翅を授かり爽籟に発つ 紅葉から暖簾をくぐり颯爽と赤蜻蛉は仕立ての袴を穿いて 一首目、そのまま意味を取れるかたは相当の手練れとお見受けします。笑 この秋、ふと拾ったカエデの種の造りに目を奪われました。 種からひとつながりに伸び、先へゆくほど薄くひろがる部分は虫の翅にそっくりで、翅脈のような筋さえ浮いていました。 この翅で秋風にのって旅立つのだな、と秋風について調べてみると、「爽籟」という言葉に出合いました。爽やかな、笛(籟)の音に重ねて、秋の風が

    • 幕間のような

      秋と本 幕間のような短編を読むたび熟すあたらしい種 あきとほん まくあいのようなたんぺんを よむたび じゅくす あたらしいたね 小牧幸助さんの企画に参加しています。 「と」シリーズは、結びつきの強いものほど難しい気がするのはなぜなんだろう。 #シロクマ文芸部

      • 紙包み - ある印刷所の夜 -

          きゅ、しゅる、とん   きゅ、しゅる、とん   がらんとした作業場に生まれては、壁に行きつく前に消えていく、微かな音の連なり。単調な繰り返しであるはずのそれはどこか楽し気で、明らかに喜びをのせた少年の鼻歌に寄り添い、インキと揮発油の匂いのこもる中に静かに響いていた。   ランプの灯りがちろちろと揺れ、慣れた手つきで活字を拭っては盆に置いていく少年を照らしている。その影は暗がりに浮かぶ印刷機に届き、突き出た木製の把手をゆらゆらと撫でていた。   私はたぶん、首の痛みで目を

        • 湧水こんこ

          爽やかな湧水こんこ八重の羊歯かき分け見れば中に我居り スニーカーの薄いソールを、尖った小石が押し返す。 踏み固められた土の山道は私の歩幅より広い段々に刻まれ、数多の靴底で磨かれた丸太が、一段一段を留めていた。 その丸太に足をかけるか、かけないかをちらりとでも考えていた頃は過ぎ、今は少し息も上がって、ただ楽な幅で、惰性のように歩を進めている。 こめかみにじわりと汗を感じた数歩あとには、雫がぽろ、と頬から落ちた。 裏山に登るのは実家を離れてから初めてのことだった。5年ぶりだろ

        蜻蛉の翅 せいれいのはね

          夕焼け敷いて(短歌3首)

          木の実と葉すべて落として清々と立つ木々のみち夕焼け敷いて 木の実と葉拾いて笑みしこの身とは吾が好みとはと問うこともなし 木の実と葉まるみ覆いし肌布団子に掛けし夜 芽生え祈りつ 2首目は「このみとは」でできる3つの言葉を組み合わせて遊んでみました。秋の森を歩くと、当然のように木の実や色づいた葉を拾って楽しむこの「私」という人と、もう数十年の付き合いで。いまさら、何が好みかなどと考えるまでもないよね、という意味のつもりです。 小牧幸助さんの企画に参加しています。 小牧さん

          夕焼け敷いて(短歌3首)

          うそつきんいろ

          金色にならない「きんいろ」色えんぴつ 絵を返してよ、うそつきんいろ。 「あれ?」 まことくんの、あれ?は、なんでも気がつく。 「ふみちゃんの、この王子さまのかんむり、茶色いね?」 なんでも気がつくから、わたしがしょんぼりしているのにも気がついた。 いつも、ぴしっ、としているまゆ毛が「八」の形になる。 「ごめん......いやだった?」 わたしはすぐに返事ができなくて、首をふった。ほっぺにかみの毛がぱしぱし当たった。いやだ、というより、かなしいんだ。くやしいんだ。うらんでるん

          うそつきんいろ

          夕焼けの焼け残り(短歌)

          夕焼けはまだ半刻は先なれば傾ける陽も熱を帯びたり 夕焼けは陽のまばゆさに白く飛び 飛び交う羽虫はひかりとなりぬ 夕焼けは枝葉の間に染みわたる葉擦れさろさろ降らす絵硝子 夕焼けは焼け残りたり青あおと 焼かるることに焦がれながらも 日が傾き始めたころから日暮れまで、公園で過ごしながら歌を詠んでみました。外で写生なんて、高校以来でしょうか。絵ではないけれど。 白飛び、は写真用語なのかな?白く飛び、として良かったのかどうか。 絵硝子は、ステンドグラスの昔の言い方だそうです。

          夕焼けの焼け残り(短歌)

          磨硝子を透かして(短歌)

          風の色が ふ、と たましいにいろを差す 気づかれぬまま それがはじまり 風の色で つ、と 私のなみだがおちる こころふるわす 天への歌声 風の色に は、と 見上げた街路樹の 葉のうつくしさ 姿も造りも 風の色を じ、と 見つめて自問する 「創った方」が居るのでなければ 風の色の く、と 焦点むすぶ先 神のことばが書かれた聖書 風の色よ う、と 心が抗います 知るべきならば教えてください 風の色か さ、と ひと筆描くように 摩硝子 濡らし透かしたように 風の色も 

          磨硝子を透かして(短歌)

          黄からひかりへ(短歌4首)

          月の色は黄からひかりへ移りけり たかくちいさくとおくなるころ 月の色ぽたりと落つる 葉の上の菱に蹲う蛙の背中 月の色ぽろぽろ落ちて囚われり 蜘蛛の網目にならぶ露珠 月の色  守宮の影が窓渡る ぎんいろの宙をひたひたとゆく 月の「色」から「ひかり」に変わるころ、それは ともに地を歩んでいた人を、天に送ったときに似ていました。 青蛙がぴたりと体を固めているのって、菱形ですよね。 #シロクマ文芸部 小牧幸助さんの企画に参加しています。 生活が慌ただしくなった中、お題をみ

          黄からひかりへ(短歌4首)

          懐かし、

          「懐かしい」口にせしとき寄せ来ては胸突くそれはかなしみに似て 「懐かし、」 「い」はふるえ形なさぬまま熱き流れに溶けて光れり 「懐かしい」懐深くそれはある 私とともに明日をも生きる 「懐かしい」と きょうを天で思う日は喜びのみがみちてあふれて 小牧幸助さんの企画に参加しています。 懐かしいあの、今の私はそぐわないけれど、今の私を造ってくれたあの景色、あの場面を、ぽろ、ぽろと思い巡らしました。感謝。 #シロクマ文芸部

          懐かし、

          はんぶんの種

          檸檬からしらじら明ける露の朝 ぼうと滲む陽あつめたひかり 檸檬から跳ねた光かその香か眩し記憶を胸に喚ぶのは 檸檬から零れないようそっと切る 甘み連れ来る酸苦もつ水 檸檬から零る水より粒よりも涙に近いはんぶんの種 檸檬からほろり外れて種は言う あなたは実る、捨てず育てよ 檸檬からもこころ様々ふるわせて私をひかれる貴方の右手                           小牧幸助さんの企画に参加しています。 レモンというくだものに、これほど目を向けたのは初めて

          はんぶんの種

          星に焼かれて

          流れ星ストロボのごと目を焼きて心に焼きしそこにいた我 鼻、耳、爪、唇の先 寒が取り 星は取りたり内のすべてを 薄雲のうらで爆ぜたるひかりあり風なき花火のかすむさやけさ 受験を控えた冬の夜、目の当たりにした流星群は 写真館にひらくストロボの白い光が爆ぜるようで 藍鉄の空に薄雲が散り流れていくその向こうから 切れ間に爆ぜる星は目を射てその残像が残るほど 雲ごしの光もなお眩しく灰白の輪郭を浮き立たせ 風なく煙まみれの花火を思い起こさせた、けれど 次々と爆ぜては散る光は、はるか

          星に焼かれて

          満ちた顔して

          今朝の月靄のしとねに身を預く務め終えたる満ちた顔して けさのつきもやのしとねにみをあずく つとめおえたるみちたかおして --- 「ねぇ、そろそろ行くね」 「んぁ、悪い。もう寝るわ」 「うん、お疲れ。おやすみなさい」 「おやすみー」 スマホの枠にはまった、彼の寝落ちした顔をもうしばらく見ていたかったのだけれど、出勤時間10分前を告げるアラームに急かされて、私はしぶしぶ声をかけた。 夜勤明けの彼は、いつも仕事前に電話をくれる。 高台から駅へと向かう道はゆるやかな下り坂で、

          満ちた顔して

          字のごとき嫗(おうな)

          萎びた手石で飾らず内からの気品香りし字のごとき嫗 しなびたていしでかざらずうちからのきひんかおりし じのごときおうな 教会には色々な人がいます。「聖人」はひとりもいません。 自分の力では償いきれないものを、神が代わりに償ってくださった。 そのことを知らされ、そのことを信じた人たちが、 とてもすっきりとして、「自分は赦された罪人だ」と上を向く場所、それが教会です。 私が大好きなおばあちゃんは、北米の高齢の女性には珍しく、大きな石の指輪やネックレスなどを身につけません。

          字のごとき嫗(おうな)

          花火と手 恋歌八首

          花火と手ひらくと似てるあなたの手どうかひらいてでも消えないで 花火と手鞠の柄散る藍の裾 鼻緒の足先 顔あげられず 花火と手重ねて振られふりむけばやっと目合ったとあなたが笑う 花火と手つないで帰ろこの胸をどんと打つ音つたわるように 花火と手ひらくと似てるきみの手をひらいてみたいでも消えそうで 花火と手鞠の柄咲く藍の肩 鼻が上向く 花火 Good Job 花火と手重ねて振れば はじかれたようにふりむく君の瞳に華 花火と手つないで帰ろ打ち上がる気持ちわかるよこの手と火花 小牧幸

          花火と手 恋歌八首

          緑黄色社会『夏を生きる』

          #みんなでつくる夏曲セットリスト Uさんの企画に参加します。50音あるし、のんびりと…、と思っていたら あっという間に埋まりそうなので、 募集中の頭文字から、初めて聴く夏曲と出会ってみることにしました。 頭文字は「り」緑黄色社会 ご紹介する夏曲は『夏を生きる』です。 アコースティックギターとバイオリンを掛け合わせたような、心地よい歌声。 聴く者を引き込み、一緒に駆け出させてくれるようなメロディ。 MV自体が芸術作品のようで素敵だな、と、聴き始めました。 しかし、歌詞を読

          緑黄色社会『夏を生きる』