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「デンマーク文化ってそんなに面白い?」とデンマーク人に言われた話

先日、寮のリビングルームでデンマーク人と喋っていると「なんでデンマークに来たの?」と聞かれた。

私はもともと北欧文化に興味があって、特にデンマークの「ヒュッゲ」という文化に興味があった。
心地よい空間で、心地よい時間を過ごすことを指す文化で、人によって違う。音楽を聴きながら編み物をするのもヒュッゲだし、誰かとお茶をしながら喋り倒すのもヒュッゲ。自分がそれをすることによって心地よく過ごせているなら、それは全部ヒュッゲ。そんな文化である。英語でいうと"cozy”みたいな感じ。

当時日本で北欧関連の会社に勤めていた私は、仕事をするのなかでこの文化を知った。いいなぁと思いながら自分で本を読んだり、ネットで情報収集したりしていた。しかし、いいなぁと思う気持ちも膨らんだが、あまりに綺麗な文化すぎて「ほんまかいな」と思う、ひねくれた自分もいた。そして、デンマーク人ってほんまにみんなヒュッゲを重んじてんの? っていうのと、仕事に疲れてしまった私はそんな素敵な文化があるなら体感したいと思い、留学先をデンマークに決めた。

デンマークのなかでも現在通っている学校(フォルケホイスコーレという北欧独自の教育機関)に決めたのは、外国人向けにデンマーク語とデンマーク文化のコースが開講されているからだった。

……ということを全部英語で伝えるのは私には難しいので「デンマーク文化に興味があったから」と、嘘はついていないけど、かなり要約して答えた。

だいたいのことは「いいね〜」と肯定して返してくれる印象のデンマーク人だが、彼女から返ってきたのは「なるほど。でも外国人からよく『デンマーク文化に興味がある』って聞くんだけど、私からするとこれが普通の文化だから、どこにそんなに面白みがあるのかわからないわ」と言われた。

決して彼女は私を否定するような言い方はしておらず、純粋に「なんでこんな普通のデンマーク文化に、外国人たちはそんなに惹かれるのだろう?」と疑問に思っているようだった。

私はその場でうまく返事ができず、ハハ〜なんでだろうね〜と、曖昧なことを言っただけだった。


けれど、彼女のこの言葉こそが、デンマークが世界幸福度ランキングでいつも上位にランクインしている象徴なんだなと思った。

他の国は知らないが、少なくとも私の生まれ育った日本は働きすぎと言われているし、引きこもりも多い。実際に私も仕事のストレスで精神を病んで休職ののち退職した経験もある。精神を病む前までも、平日は残業祭りで終電に間に合うギリギリまで仕事をして、ダッシュで駅に向かったことも何度かある。終電でなくても帰宅時間は遅めだから、軽くご飯を食べて、シャワーを浴びてすぐ寝ないと翌日起きられない。翌日が遠方出張で早朝起床しなければならないときは本当に地獄だった。

土日は友人と出かけたり、家で自由気ままにゴロゴロして過ごしたりしていたので、その時間をヒュッゲと呼ぶならそうだったと思う。しかし平日は毎日1人で戦争を勃発させていて、ヒュッゲのどの字も入る隙間がなかった。強いて言うなら、通勤電車に揺られている間の読書だったのだろうか(片道15分)。それにしても24時間のうち、たったの合計30分だから少なすぎる。

日本にいる私からしたら、国の文化としてヒュッゲを重んじていて、どんなに忙しくてもこのヒュッゲの時間を確保しようと努力するデンマーク人たちの心構えがやっぱり魅力的だ。自分の心地よく感じないことはしない、という考え方もいいなぁと素直に思うし、そうあるべきだよなぁと思う。日本人は自分のやりたいことや嫌なことも我慢して受け入れてしまう人種(と思っている)だから、デンマーク人のような考え方で生きられたらもうちょっとラクなのかなぁとも思う。

自分の心地よい時間と空間を、日頃から意識せずとも自然に求めていて、作っている。

全人類にとってこの文化がデフォルトであれば、多少の喧嘩は起きても大きな争い事は起きなさそうだ。でも実際そんなことはない。

デンマークに来て3週間、まだまだこの国について語るには浅すぎることは重々承知だが、この素晴らしい文化を「面白みがない」と言えてしまう感覚こそが、幸せなんだろうなぁと思ったし、それが毎年測られている幸福度ランキングにも繋がるんだろうなぁと思った。

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