#15 全国各地にたくさんある「高田市」
はじめに
『J NOTE』第15回は、全国各地にある「高田市」を取り上げます。
2023年1月現在、市の名前に「高田」が付く自治体は全国で4団体あります。そして、過去に新潟県に所在していた高田市(現上越市)を合わせると、これまで5つの高田市が存在していたことになります。
そこで今回の『J NOTE』では、全国に所在する「高田市」の特徴について、それぞれ見ていきたいと思います。
全国各地の「高田市」あつめてみました
①上越市高田地区 ―歴史の風薫る街―
新潟県上越市は、人口およそ18.4万人の上越地方の中心都市です。その中で、高田は江戸時代から高田藩の城下町として栄えた歴史のある街です。
現在の高田地区は、上越市役所が置かれるなど行政の中心地です。また、北陸新幹線の上越妙高駅や、上信越自動車道の上越高田インターチェンジが地区内に立地しており、上越地方の玄関口としての役割も担っています。
そんな高田地区には、様々な博物館や記念館が立地しています。高田城址公園内にある「上越市立歴史博物館」をはじめ、「上越市埋蔵文化財センター」や「日本スキー発祥記念館」、前島密の業績を展示している「前島記念館」などが高田地区内にあります。
また、市内には歴史のある建物が数多く残されており、観光スポットとしても人気があります。
「旧師団長官舎」は、明治時代に旧陸軍高田駐屯地内に建てられた和洋折衷の建造物で、現在は高田市街地に移設・保存されています。建物にはレストランが併設されており、フランス料理のコースを楽しむことができます。
また、「高田まちかど交流館」は旧第四銀行高田支店の建物を利用しており、ホールの貸出や昭和初期の高田の様子が分かる資料を保存しています。
このように、高田地区は数多くの博物館や歴史的建造物があり、歴史を感じることができる街であるといえます。
②陸前高田市―新たな街づくりで「ゆめ」を繋げる街―
岩手県陸前高田市は、岩手県の三陸地方に位置する人口およそ1.7万人の市です。
市が面している広田湾は、ワカメやカキなどの養殖業が盛んであり、天然のウニやアワビなどが採れる豊かな漁場です。また、プロ野球千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手の出身地としても知られています。
そんな陸前高田市では現在、「イシカゲ貝」と「たかたのゆめ」を名産品として売り出しています。
「イシカゲ貝」は、現在全国でも広田湾のみで養殖されている貝です。広田湾では1990年代から養殖が始まり、現在では陸前高田の夏の名産品となっています。
イシカゲ貝は大きさが6cmほどで、甘みとうまみを感じることができる身が特徴的な貝です。生産量が限られていることから、なかなか一般的には流通していない幻の貝ですが、時期になると広田湾漁協のオンラインショップでも買うことができます。
「たかたのゆめ」は、陸前高田市で新たに開発されたブランド米です。
2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けた街の復興を目指して、JT(日本たばこ産業)が提供した種を元にして、2013年から本格的に栽培が始まった品種です。品種の愛称である「たかたのゆめ」は公募で選ばれたものであり、陸前高田市に住む人々の「ゆめ」を乗せて日本中で愛されてほしいという願いが込められています。
「たかたのゆめ」は、インターネットで購入することができ、ふるさと納税の返礼品にも選定されています。
このように、陸前高田市では恵まれた自然環境を生かして、地元ブランドの生産・発信に力を注いでおり、常に新たなまちづくりに挑んでいる街であるといえます。
③大和高田市 ―様々な花が咲き誇る街―
奈良県大和高田市は、奈良盆地の南西部に位置する人口およそ6.2万人の市です。
大和高田市は、大阪難波駅から近鉄電車で約30分という好立地であることから、近隣都市と並んでベッドタウンとして発展してきました。
また、市内を本拠地とする「大和高田クラブ」は、社会人野球のクラブチームの中でも屈指の強豪クラブです。昨年は社会人野球日本選手権本戦に出場し、企業チーム相手に勝利を収めるなどの好成績を残しています。
そんな大和高田市には、桜並木が数多くあります。特に大中公園は「高田千本桜」と呼ばれ、高田川沿いに2キロ以上続く桜並木には毎年数多くの観光客が花見に訪れています。
また、大和高田市ではまちづくりのテーマとして、「笑顔の花咲くまち 大和高田」を掲げています。市では2027年度までの長期計画のなかで、特に福祉や子育て環境の強化に力を入れており、安心して暮らせるまちづくりに取り組んでいます。
④安芸高田市 ―毛利氏とサッカーの街―
広島県安芸高田市は、県の中央部に位置する人口およそ2.6万人の市です。
戦国武将として名高い毛利元就の生誕の地であり、市内中心部の吉田地区には数多くの史跡が残されています。また、市内各地では安芸高田神楽が伝承されており、2023年現在では22の神楽団体が活動をしています。
安芸高田市は広島県の山間部に位置していることから、キャンプでこの街を訪れる人も数多く居ます。特に昨年秋に開業した「IHANA! フォレストグランピング&ヴィラリゾート」は、プールやサウナが全室完備されているハイグレードなグランピング施設であり、新たな観光スポットとして人気を集めています。
そんな安芸高田市は歴史だけでなく、サッカーの街でもあります。
安芸高田市には1999年より、サンフレッチェ広島ユースの育成施設が置かれています。これは前身の吉田町が誘致したもので、現在でも安芸高田市が様々なバックアップをしています。そして、安芸高田市内ではサンフレッチェ広島によるサッカー教室が開かれており、サッカーによる地域交流も盛んであるといえます。
また、現在サンフレッチェのユースに所属している学生は全員寮生活をしており、高校についても原則市内の吉田高校に通学しています。そのため、地元の学生と全国から集まってくる学生とが一緒に学んでおり、新たな交流が生まれているものといえます。
このように、安芸高田市では歴史や伝統文化だけでなく、サッカーやグランピングなどを通して「新たな産業」も生み出されています。
⑤豊後高田市 ―暮らしやすさトップクラスのレトロの街―
大分県豊後高田市は、国東半島の付け根に位置する人口およそ2.2万人の市です。今回取り上げた5つの市のうち、唯一鉄道と高速道路が両方通っていない街です。
豊後高田市は、宝島社が刊行している『田舎暮らしの本』内で毎年実施される「住みたい田舎ランキング」で常に上位にランクインする街です。市では子育て支援や移住支援を手厚く行っており、「中学生までの給食費無料」や「移住者向け住宅の土地代無料」などの政策を実施しています。
豊後高田市は農業が盛んな地域です。市内では米やソバ、ネギなどが数多く生産されています。
そんな地域柄を生かして、市では「FARM STAY 農泊」を実施しています。この取り組みは、国内外から農業体験を希望している学生を集めて、一般家庭にホームステイという形で農業と生活を体験してもらうものです。また、移住先を探している人たちに対しても、同様の取り組みを行っています。
また、豊後高田市は「レトロな街」としても知られています。
豊後高田市では、2001年から「昭和の町」による街づくりをスタートさせており、商店街の活性化と街のブランド作りに取り組んでいます。
町内には50軒以上に及ぶ昭和初期・中期の建物が立ち並ぶ商店街や、様々な昭和に関する展示品を集めた「ロマン蔵」などがあり、市では様々なレトロ感あふれる街づくりを行っています。
この取り組みは、メディアで多数取り上げられており、現在ではこのレトロな街並みを一目見ようと多くの観光客が豊後高田を訪れています。
このように豊後高田市では、子育て支援や移住支援の拡充、また街を生かした観光事業に取り組むことで、様々な街づくり政策を行っているものといえます。
おわりに
ここまで、全国各地の「高田市」について見てきました。
今回取り上げた5つの街は、場所やその環境は大きく異なっているものの、それぞれが街にあった政策に取り組んでいることが分かりました。
関連文献
香川貴志「レトロを基軸にした地域振興へのアプローチ」『京都教育大学教育実践研究紀要』第16号(京都教育大学教育支援センター、2016年)
田林明、石田幸太、伊藤真理子、梅原香那「高田平野とその周辺の観光振興における地域資源の活用」『筑波大学人文地理学研究』第32号(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球環境科学専攻、2008年)
柳井ゼミナール「東日本大震災後の産業復興の実態と課題 ―岩手県陸前高田市と大槌町の被災地調査―」『地域構想学研究教育報告』第9号(東北学院大学教養学部地域構想学科、2018年)