#5 スポーツによる地域貢献と観光 ―茨城県鹿嶋市を例に―《前編》
はじめに
『J NOTE』第5回目は、茨城県鹿嶋市を取り上げます。書いているうちに本文が長くなってしまったので、今回は前後編に分かれて公開する予定です。
鹿嶋市は茨城県の南東部に位置する太平洋に面した街です。隣の神栖市と「鹿島臨海工業地帯」を形成しており、市内には日本製鉄グループの工場が多数立地していることから「鉄鋼業の街」として知られています。また市内には鹿島神宮が鎮座しており、大船津地区の水上に立つ「西の一之鳥居」は景観が素晴らしくインスタ映えするスポットとして人気を集めています。
さて、鹿嶋市といえば何といっても「鹿島アントラーズ」です。アントラーズはJリーグ初年度(1993年)から参戦し、「国内タイトルはJリーグ最多の20冠」「J2に降格した経験がない」という全国屈指の強豪クラブです。
アントラーズのホームスタジアムである「カシマサッカースタジアム」へは、東京駅から直行バスで2時間以上かかるものの、2022年10月28日現在のホーム観客動員数はJ1所属の18クラブのうち7番目に多く、人気と実力を兼ね備えたクラブチームであるといえます。(参考)
このように、鹿嶋市は大規模な工業地帯や全国的に有名なサッカークラブを擁していますが、市の人口は約6.6万人に留まっています。鹿嶋市はこれまで大幅な人口減少は経験しておらず、ピーク時でも人口は7万人を超えたことがありません。
つまり、決して大きな街の規模ではないにも関わらず、「大規模な工業地帯」と「J1クラブ」が立地しているという全国的にもあまり類を見ない街であるといえます。
今回は「スポーツによる地域貢献と観光」と題して、鹿嶋アントラーズによる地域貢献活動や、プロスポーツを軸にした鹿嶋市の観光政策についてみていきたいと思います。
鹿嶋市と全国のJリーグクラブ所在地との比較
鹿島アントラーズによる地域貢献活動に触れる前に、まず人口約6.6万人の街にJリーグのクラブがあるということがどれほど珍しいのか見ていきたいと思います。
次の表1は、2022年シーズン時点でJリーグに加盟しているクラブの一覧と、そのクラブが所在している市町村の人口が多い順からならべたものです。(文字が非常に小さいので拡大して閲覧してください)
表1から、鹿嶋市の人口はJリーグのクラブ所在地で3番目に少なく、全国のクラブ所在地と比較してもかなり少ない部類であることが分かります。
鹿嶋市以外のホームタウンである潮来市、神栖市、行方市、鉾田市の人口を足しても26.3万人程度に留まるため、アントラーズのホームタウンに指定されている地域の人口規模は、他のクラブと比べても決して大きくないことがわかります。
また、鹿嶋市よりも下位にある「モンテディオ山形」(天童市)と「徳島ヴォルティス」(板野町)については、それぞれクラブの所在地とホームスタジアムの所在地が異なっています。モンテディオは山形市(人口24.7万人)の「NDソフトスタジアム山形」、ヴォルティスは鳴門市(5.4万人)の「鳴門・大塚スポーツパーク ポカリスエットスタジアム」がホームスタジアムです。
そのため、鹿嶋市は鳴門市やサガン鳥栖の本拠地である鳥栖市と並んで、Jリーグのクラブ所在地で最も都市の規模が小さいホームタウンであるといえます。
鹿島アントラーズはホームタウンが他のクラブと小さい分、地元自治体と企業が官民一体となってクラブを支えています。その結果、鹿嶋市は現在のように「サッカーの街」として全国的に知られるようになっていきました。
そして、鹿島アントラーズ側も地域貢献活動に積極的に取り組んでいます。現在では全国各地でスポーツによる観光振興や地域活性化政策などが行われていますが、鹿嶋市や鹿島アントラーズはその草分け的な存在であるといえるでしょう。
では、鹿島アントラーズはどのような地域貢献活動を行っているでしょうか。
鹿島アントラーズによる地域貢献活動
鹿島アントラーズでは、クラブ設立から約30年間地域貢献活動に積極的に取り組んでいます。
鹿島アントラーズの前身クラブは、「住友金属工業蹴球団」というアマチュアクラブでした。
当時日本リーグの2部に所属していたこのクラブがJリーグに加盟するには、実力面や鹿島の街の規模などから鑑みても相当厳しいものでした。それは、当時Jリーグの設立に尽力していた川淵三郎氏が後のインタビューで「住金が加入できる確率は限りなくゼロに近く、99.9999%ダメだったと思いますね」と言うほどでした。
そのため、当時の鹿島地域の自治体や茨城県、鹿島臨海工業地帯に立地する企業が一体となって、熱心にクラブのJリーグ加盟活動を行いました。その加盟活動が実を結んだことで、99.9%不可能と言われた鹿島の地にプロサッカークラブが誕生することとなりました。
(↓詳しい経緯は、以下のリンクを参照してください↓)
以上の経緯もあって、鹿島アントラーズでは積極的に地域貢献活動に取り組んでいます。ホームタウン内にある小学校訪問やユニフォームの贈呈、観光プラットフォームの運営やキャリア教育事業など、その活動は多岐にわたっています。
また、アントラーズでは「ホームタウン」の他に、「フレンドリータウン」を新たに指定して地域貢献活動を行っています。
フレンドリータウンとは、ホームタウン以外の近隣市町村と協定を結び、地域活性化や地域振興、市民の健康増進に向けた取り組みを行うアントラーズ独自の制度です。
フレンドリータウンには、以下の12市町村が指定されています。
アントラーズでは、このフレンドリータウンを冠したイベントをホームゲーム開催時に行うなど、周辺地域の地域活性化や観光振興を行っています。
以上のことから、鹿島アントラーズではクラブ設立から積極的に地域貢献活動に取り組んでおり、鹿嶋市の知名度向上や観光・地域活性化に大きく貢献していると言えます。
アントラーズは、2019年に親会社が日本製鉄からメルカリに移りましたが、2020年に鹿嶋市と新たに地方創生事業に関する包括連携協定を結ぶなど、積極的な地域貢献活動の姿勢は変わってはいません。
《後編に続く》
関連文献
鹿島アントラーズの地域貢献活動やクラブ運営については、WEBの記事でかなり多く取り上げられています。一部抜粋して紹介します。
LIXIL「カシマサッカースタジアム×LIXIL 地域創生を担うこれからのスタジアムのあり方」(2020年4月)
Sportiva「小泉文明が語るノンフットボールビジネスの正体」(集英社、2021年11月)
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