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前髪とメガネの、消極的掛け算
少しずつ視力が落ちていることを感じており、メガネを新調したいと半年ほど思っていました。ようやく年末年始に実家に帰省して、メガネを買い替えるべく、両親とショッピングモールに行きました。母も「わたしもテレビが見づらくなったの」と言って、メガネを購入したいとのこと。
わたしはパソコンと睨めっこする時間が多かった大学院生の頃から、メガネを四六時中かけるようになりました。特段メガネにこだわりはなかったのですが、黒縁の存在感があるメガネだけは非常に似合わない顔立ちだと自覚しており、できるだけ軽くて細いフレームのものをこれまで3本使っていました。
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メガネ屋に到着して、早速フレーム選びを開始。これかな、あれかなと思いながら着せ替えメガネに熱中になっている一方で、母はすぐに飽きてしまい、早く早くと急かしてきます。これでもわたしは26歳の女性で、1日の大半をメガネと一緒に過ごすため、日々の大事な相棒となるアイテムです。ゆっくり選ばせてほしいな、と心で思いながらも、そそくさと視力検査の手続きを済ませる母につられて、わたしの気持ちも焦り気味。結局、耳に沿う形のやわらかな付け心地に惹かれた1品を購入することに。視力検査では想定通り「視力が低下していますね。度数をあげましょう」と言い伝えられ、なんとなくホッとして新しいレンズで注文しました。昼食後にメガネを引き取り、早速つけてみると、見違えるクリアな世界に心が躍った。
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こんなに耳が痛くならないんだ、と付け心地に感動したのも束の間、弟からは「前のメガネの方が似合ってたよ」と言われ、「あ、でも見慣れていないだけかも」とフォローもされ、やさしいフォローがわたしの心を容赦なく刺す。メガネ屋では、「多少縁があるけど、この程度の縁なら問題なく似合いそうだ」と思っていたけれど、それは度数が入っていないカラのメガネだったからで、わたしの朧げな視力で似合っていると勘違いしてしまっただけだった。幻想で、幻覚だったのだ。
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村に戻ってからも、どうしても新しいメガネとわたしの顔と気持ちの相性が合わず、悶々としてしまう始末。目を見開いてじっと見つめても、見る角度を変えても、朝でも夕方でも、すっぴんでもメイクしたとしても、似合わないものは似合わず、事実がひっくり返ることはない。メガネがわたしに施す悪事を何かに背負わせたい、と衝動的に鼻の下まで伸びていた前髪を自らの手で切ることに。
ココアのように甘い前髪、これで9割なんて甘ったるい
さらに前髪に罪を背負わせたいと思い、眉毛の形がはっきり見えるオン眉に切り揃えてみました。恐る恐るメガネに手をかけ、いざ装着。
ああ、これでメガネの悪事は、前髪と分け合うことになった。わたしの顔立ち×メガネ×前髪の組み合わせがいいとか悪いとか、それは各々の価値観に委ねることになるだろうけれど、わたしの気持ちは軽くなった。顔もメガネも前髪も、互いが罪をなすりつけているようで、不完全で健全な関係性だった。それはそれで、わたしが愛せる形だと思い、悪くないイメチェンという自己評価に至った。これで十分で、これが全てだ。