見出し画像

祝日日記(冬子の日記)

五月二日 木曜日 晴

無性に歩きたくなり北鎌倉まで。ふだんは超熟六枚切りで十分だが、ここ数日、おいしいパンのことが頭から離れなくなってきたので買いに行く。カンパーニュとクロワッサン。クロワッサンはヒルサイドパントリー代官山の天然酵母のものとDEAN&DELUCAで扱っていたメゾンカイザーのクロワッサンが好きだった。それから二十年は経っていて、ほかの店のものも食べていたと思うがさっぱり思い出せない。北鎌倉のパン屋のものは「バター40%」と書かれていた。

五月三日 金曜日 晴

近所の草刈りを手伝う。父ぐらいの年齢の方々がたいそう重い草刈り機を身体に装着し、斜面に生える草を不安定な姿勢で刈っていった。他のひとは木に絡みつく蔓を取ったり、セイタカアワダチソウを抜いたり、斜面になんとか踏ん張って立ち、鎌を使って笹をひたすら刈った。とても暑い日だった。

五月四日 土曜日 晴

夜中に左足のふくらはぎがつる。身悶えする。昼にアスパラガスをさっと焼き、塩胡椒して食べる。たいへん瑞々しい。

五月五日 日曜日 晴

昨夜ぎっくり腰になった夏子の代わりに百閒と出かけることになった。こども源平合戦というイベントで、スポンジ刀で相手の命玉というボールを落とせばいいらしい。百閒がルール違反をしている子に注意すると「みんなやってるし」と言い返され怒っていた。小学一年生くらいの男の子がなんど命玉を落とされても、そのたびぶつぶつと何かつぶやき、また付けては少しずつ敵の陣地に入ってくる。なにかに似てると思ったが、その時はわからなくて、帰り道にああゾンビか、と悲しい気持ちになる。帰りながら百閒に、多くの人が集まるところでは残念だけどルールを守らない人が何人かいることがよくあるんだよ、と話す。話したとたん嫌になる。そんなことして勝って楽しいのかね、ああいう人たちはどうすればいいんだろうね、といろいろ考えてしまうことがあり、こども向けイベントなのにきっかりと社会の縮図のようなものが入っていて、私たちは心身ともにくたびれて家に帰った。夏子がMOWの抹茶アイスをくれた。

本よみは深澤直人『ふつう』の富士そばの話、保坂和志『もうひとつの季節』の飛行機事故で死んでしまった大学の同級生の話が印象に残った。






この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?