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冬子の日記

8月20日 日曜日

実家へ。母がわかりやすく痩せていた。来週、検査の結果がわかるので電話すること。昔は広く感じたテーブルの上には、ポット、湯呑み、たくさんの薬などがあり、同じテーブルなのにせまく感じる。母が作ってくれた、あんかけかた焼きそばを3人で身を寄せ合うようにして食べる。いつもは早々と食べおわる母が、私よりだいぶ後に食べおわる。同じものを食べるということはグロテスクなことだ、と言っていたのは誰の小説だったろう。

8月21日 月曜日

なにを食べればいいのかわからない日が続く。先週、ぼんやりと欲するまま、ビールやアイスをクーラーのきいた部屋で食べていたら、腹痛と頭痛がいっぺんにきて、静かに横になることもできなかった。いつもは親しいものでしかない部屋のあかりも、容赦なく目を刺した。暗くなっていく部屋で、ひとりきり、大きな痛みの波と小さな痛みの波に揺さぶられ続ける。ひたすらその波が去るのを待った。ああいう時は見事になにも考えることができないな、と翌日の安全な場所にたどり着いた身体で思う。まったく隙のない痛みの一瞬一瞬に生きている実感があったことに気づく。

8月22日 火曜日

水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』、柚木麻子『私にふさわしいホテル』を図書館で借りる。柚木さんはEテレの「100分de名著」で林芙美子『放浪記』の案内役をしていて好感をもった。新人作家が文壇界で奮闘する『私にふさわしいホテル』は面白く、時々声を出して笑ってしまう。笑ってしまうのと同時に、主人公や編集者や大御所作家の言葉が自分にもはね返ってくる。まだ誰も聞いたことがない話なんてこの世のどこかにあるのだろうか。水凪さんのマンガは食欲のない日々にじんわりと沁みこんでくるものがあった。少し運動をして、食べられる時にたんぱく質をとるようになる。今まで出会ったかぞえきれない顔や声や書体が、運動となにを食べるのがよいか言っていたが、私を動かしてくれたのは、また物語だった。






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