書評に誘われ広がる世界
Junkoさんが図書新聞の書評で紹介されていた『レストラン「ドイツ亭」』を読んだ。いつもながらすばらしい書評で、すぐに本屋に探しに行った。手にとったとたんこれは「読まなければならない本」だと直感した(ちょうど『夜と霧』(みずず書房)を読んだあとだったということもきっとある)。
舞台は1963年のフランクフルト。主人公はごく普通の家庭に育った24歳のエーファ。家族は、レストラン「ドイツ亭」を営む父と母、そして看護師の姉。ポーランド語ができることからアウシュヴィッツ裁判で強制収容所の被収容者の通訳を担当することになる。ドイツが先の戦争で行った残虐な行為が被収容者たちによって次々と語られ衝撃を受ける。裁判にかかわることを良く思わない家族や恋人との関係も少しずつ変化していくが、真実を明らかにしなければならないという使命感に駆られるエーファ。そして最後は自らの家族の真実と向き合うことになる。
とあるドイツ人一家に実際に起きた話なのではないかと思わせる巧みなストーリー展開と細かな心情描写に一気に引き込まれる。エーファの気持ちが染みるように広がっていき、いつの間にかエーファの勇気と行動力に感化されている自分がいた。1人の人間としてのエーファの成長にも心打たれ、エーファと一緒に過去と現在の「真実」に向かっていく感覚になった。
「真実」を知ること。それは単純なようだけど実はとてもこわくて難しくて勇気がいると思う。でもやがては自分らしく生きていくことにつながるのだと示してくれている気がした。
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アウシュヴィッツ裁判で、当時、多くの人が過去の真実を知って人生が大きく変わってしまったのではないかと考えた。このストーリーを読んで、たとえ残虐な行為を直接行っていなくても、その一部に組み込まれていた家族がいることで葛藤を抱え、何かが崩れてしまった人たちがいたに違いないと実感した。犠牲を強いてまで真実と責任を明らかにして、偽りのない未来を国民とその子孫に託そうとしたドイツという国の真摯な姿勢に感動した。
森内薫さんの「訳者あとがき」も読みごたえがあり、とても勉強になる。その中で紹介されている映画『顔のないヒトラーたち』(日本公開2015年)も必ず観ようと思う。
この本も読みたい。
https://republica-annex.com/items/5dcac9d9e3900716ea6a1c18