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セルフエスティーム——自己肯定感を高める活動を学校現場から

ARROWSが提供する、先生と企業が一緒につくる新しい授業「SENSEI よのなか学」をご活用いただいた企業様に、導入の背景や想いについて伺いました。

<お話を伺った方>
能田 凪(のうた・なぎ)さん(写真左)

ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社
マーケティング—パーソナルケア
ブランドアシスタント—ダヴ スキンクレンジング

◆「美しさ」から生まれる自信を若い世代のすべての人に

——若い世代の自己肯定感を高めるプロジェクトを進めておられますね。どのようなお取り組みでしょうか。

「ダヴ セルフエスティーム(自己肯定感)プロジェクト」と命名して、ダヴが世界中で2004年から続けている活動です。主にダヴのメインの消費者である女性を対象としているのですが、これから次代の社会を担っていく若い世代の人たちが、自分の容姿を前向きにとらえることで自信を持ち、自己肯定感を高めながら、自分の可能性を最大限に伸ばしていけるようにと願って始めたものです。

「ダヴ(Dove)」はユニリーバのブランドの1つで、ボディウォッシュや洗顔料、ヘアケアなどの製品ラインナップを展開しています。そうしたブランドの使命として、「すべての女性が、自分のありのままの美しさに気づくきっかけをつくること」を目指してさまざまな活動を行ってきました。誰もが「美しさ」を不安の種とするのではなく、自信の源にしていけるように、そんな想いが込められたプロジェクトです。

能田さん

——具体的にはどんなご活動をなさっているのですか?

活動の柱は大きく2つ、「ブランド セイ(Brand Say)」と「ブランド ドゥ(Brand Do)」に分かれています。「セイ」はメッセージを発すること。数々のイベントやキャンペーン、広告・広報活動を通じて私たちの考え方、自己肯定感の大切さを訴えています。「ドゥ」は広告を制作する際や教育の場を通じて、その想いを実行に移すこと。学校の先生に教材を提供したり、ワークショップを開催したり、保護者の方々にも参加していただいたりしています。

「ダヴ セルフエスティームプロジェクト」の元で開発されたプログラムは、これまでの20年間に約140カ国・地域で実施され、7,000万人を超える方々に参加いただきました。これをもっともっと広めようと、2030年までに全世界で2億5,000万人に参加していただくことが目下の目標。ARROWSさんの「SENSEI よのなか学」に参画しているのもその一環です。

◆企業として、ブランドとしてのパーパスが活動の起点

——ブランドの使命と次世代の教育が強く結びついているのですね。会社全体の方針としてはいかがですか?

ユニリーバとしては、3つの分野で、人々の暮らしや社会、地球環境をよりよくするための活動をしています。

例えば、「地球の健康を改善する」という分野では、気候変動を食い止める、プラスチックごみを減らす、自然を保護・再生するといった活動。また、「より公正で、より社会的にインクルーシブな世界に貢献する」という分野では、多様性やインクルージョン、公平性を尊重するとともに、バリューチェーンに関わる人々の生活水準の向上に努めています。そして、「人々の健康、自信、ウェルビーイングを改善する」分野では、ブランドを通して、自己肯定感を高める活動を含む、健康・衛生・栄養に関する取り組みを進めています。

私たちが世界共通のパーパス(目的・存在意義)として掲げている「サステナブルな暮らしを“あたりまえ”にする」には、こうしたことのすべてが含まれています。それは事業活動にも直結していて、世界最大級の消費財メーカーとして、ビューティ&ウェルビーイング、パーソナルケア、ホームケアなどの分野で400以上のブランドを動かす企業だからこその、人々の生活に深く広く根づいた使命感だと考えています。

——その400ものブランドのそれぞれに独自のパーパスがあると伺いました。

はい。ダヴでいえば、「あなたらしさが美しさ」といえる世界を実現すること。ダヴがアメリカで誕生したのは1957年ですが、それまではただ汚れが落ちればいい、殺菌できればいいとされてきた石けんに、初めて保湿効果を加えたのがダヴでした。つまり、健やかで美しい素肌であるための要素を加えたんですね。

それ以来、ありのままの自分の姿を美しいと感じてもらえるよう、そしてその美しさを自信に換えて、一歩踏み出して何かに挑戦したり、自分の可能性を広げたりしてもらえるよう、すべての女性を支え続けていく。そんなブランドであろうとしてきました。

実は私自身、ユニリーバへの就職を決めたのは、この企業としてのパーパスと、ブランドとしてのパーパスに惹かれたことが大きな理由の1つでした。それが単なるキャッチコピーで終わらずに、セルフエスティーム・プロジェクトのような形で実践されていることも素敵だなと。消費財というのは多くの人が毎日のように使うもの。そのタッチポイントの豊かさを生かしたら、暮らしにまつわる考え方や価値観をよりよい方向に変えられるんじゃないか。そんなふうに思いました。

◆教育の力を信じて「SENSEI よのなか学」に参画

——セルフエスティームも、そうした理念の延長線上にあると。逆にいえば、それだけ容姿が理由で自信を持てずにいる人が多いのでしょうか。

そうですね。ダヴが2017年に行った世界調査の結果を見ると、日本の10代の女の子のうち自分の容姿に自信を持っている人はたったの7%しかおらず、大半の人が子どもの頃から容姿に対する不安を抱えていることがわかります。そんな子の10人に6人もが、自分の外見に自信が持てないという理由で、クラブ活動などのやりたいことを諦めてしまったり、自分の意見をちゃんと言えなかったりしています。食事制限をする子も多くて、健康リスクにもつながっているんです。

日本人は特にその傾向が強いですね。内閣府の調査(2019年版子供・若者白書)では、「自分自身に満足している」のは全体の10%、「自分には長所があると感じている」は16%だけ。どちらも欧米や韓国などの7カ国中で最下位の数値です。

こういう現実を目の当たりにすると、大人の女性だけでなく、もっと早い段階から「ありのままの自分の美しさ」を知ってもらう必要があることを痛感します。美しさは決して不安の種ではなく、自信の源なんだと。

——教育との結びつきがよくわかりました。ARROWSを日本でのパートナーに選ばれたのはなぜですか?

私がユニリーバに入社する前、2019年頃のことですが、先ほどお話しした「ドゥ」の活動を日本でももっと広げようという話が持ち上がり、それには教育現場との接点を数多くつくる必要が出てきたのだと聞いています。日本には約5,000校の高校があるそうですが、その99%もの学校にARROWSさんに会員登録をしている先生がいることを知って、非常に大きな可能性を感じたのが始まりだったそうです。

ARROWSのご担当者から教育現場のお話を伺うと、他人と自分を必要以上に比べてしまったり、他人の評価を意識しすぎたりする生徒さんが増えているというんですね。それにはおそらくスマートフォンやSNSの普及も関係していて、自分の写真をアップするのにも過度のプレッシャーを感じているようだと。それと同時に、自分らしさや個性を認める力が乏しくなりつつある。子どもたちと日々接する先生方もそう感じていることがわかりました。

それならば、私たちがこれまで世界各地で教育プログラムに使ってきたコンテンツを生かして、日本の学校向けにアレンジした教材を一緒に開発しましょうと、そんなふうにして「SENSEI よのなか学」を導入するお話が進んでいったということです。

◆授業で実践するからこそ浸透する「自己肯定感」の大切さ

——「SENSEI よのなか学」に参画されてよかったと思うことは?

1つは、活動の間口が広がったこと。ARROWSさんが対象としている100万人の先生の先には1,200万人の生徒さんたちがいます。私たちのブランドパーパスを達成するためにも、「SENSEI よのなか学」を通じて一人でも多くの子どもたちに「自分の魅力」を知ってほしいと思っています。

 もう1つは、学校の授業に取り入れていただくことで、より教育に近い場所で、より恒常的に続けられるプログラムが実現したこと。イベントやワークショップのようなスポット的な活動に加えてこうした場があることで、多面的な成果が得られると考えています。

それとやはり、授業として成立させるためのノウハウです。学校の授業で教材として使っていただくためには、学習指導要領を無視するわけにはいきません。私たちにも、これまでの活動を通じて蓄積してきた独自の教育方法や教材コンテンツはありますが、これを学校という場にどう馴染ませるかは、ARROWSさんの知見に負うところが大きいと思います。

——これまでの成果とこれから期待していることについてお聞かせください。

日本で「ダヴ セルフエスティームプロジェクト」が動き出したのは2014年でした。その当初、公益社団法人ガールスカウト日本連盟さんとの協働で始めた「大好きなわたし~Free Being Me~」という取り組みも、私たちの代表的な活動の1つです。こちらは7歳から15歳の子どもたちを対象にしたプログラムで、例えば、目が大きいとか、痩せているとか、社会で一般に理想とされる「つくられた容姿のイメージ」に疑問の目を向けることから始め、一人ひとりが自分を受け入れ肯定できるようになることを目標にしています。世界各国で実施しており、これまで日本では5万1,454人が参加してくださいました。

こうした活動が評価されて、2021年に文部科学省の「青少年の体験活動推進企業表彰」で審査員会優秀賞を受賞したことは大きなマイルストーンになったと思います。そのうえで、ARROWSさんとの協業で教育現場に直接的に働きかける活動が加わったことで、今度はどんな相乗効果が得られるだろうと楽しみにしているところです。

実際、「SENSEI よのなか学」の授業を受けた生徒さんたちへのアンケートで、「ありのままの自分が思っているよりも素敵なんだと気づかされた」「いろんなことに挑戦や体験をしてみたい」といった声を聞くこともできました。授業を受ける前と後で、「自分のことが好きだ」と感じる度合いが20%も上がっていることにも手応えを感じています。

こうやって若い世代の意識が変わる瞬間に立ち会える機会が今後もっと増えていくとしたら、こんなにうれしいことはありません。

——どうもありがとうございました。