108号室
「俺、彼女居るんだけど、いい?」
大人数での飲み会を2人で抜けて、コンビニへ行った帰り道。
キスをした後に言われたセリフ。
良いわけないだろ という心の声とは裏腹に、頷き胸に顔を埋めていた。
あの人はいつも私に好きだよと囁いて、だけどまだ彼女と別れられないんだと言った。
誰にも内緒で通った108号室。
荷物が置かれたソファに、書類で沢山の机、床にはその日取り込んだ洗濯物があった。
ソファに並んで飲むのはカフェオレで、はじめにベットへいくのはあの人。
優しい声色の「おいで」が合図だった。
甘いカフェオレと、苦くて大嫌いなタバコの味。
行為が終わった後、抱きついた背中越しに見えた彼女からの連絡。
見ないフリをする私を気にする様子もなく、それに返信をするあの人。
さっきまで私に触れていたその指で、彼女へ甘い言葉を紡ぐ。そんな最低な人。
さっきまで彼女へ甘い言葉を紡いでいたその指で、私に触れないで。そう思いながら指を絡めた。
403号室。
あの人からの着信。
受話器越しに聞こえる切ない声色。
「会いたい。」
その10分後には彼女との旅行で買ったお土産を持ってきた。
それを受け入れてしまう盲目で愚かな私。
私が彼女ではなかったから、あの人が彼氏ではなかったから、ふたりはうまくいっていた。
「俺、結婚するわ」
好きだというだけでは一緒に居られなかったあの人との日々を、いつまでも忘れられずにいる。