大丈夫じゃないけど悪くない日
2022.11.21(月)
講堂
今日は学校の行事。講堂で少し長めのお話を聞く日
少し前から不安だった
講堂が怖かった
でも耐えるつもりだった。乗り越えるつもりだった
HRから講堂へ移動するとき、私は担任のK先生に「先生どこにいる?」と聞いた
先生の場所がわかればもししんどくなった時声を掛けられる。つまり逃げられる
頓服も服用していたしそんな状況にしておけば平気だと思った
先生は「みんなの後ろに座ってるけど。人少ないからこっちへ来るか?」と聞いてくれた
私は頷いた
この日には精神疾患があることをクラスの女子にカミングアウトしていたので、逸脱した行動も取りやすかった
でもだめだった
気付いたら私はみんなから外れて講堂の扉から1番遠い柱の横に突っ立っていた
脈が、速い
呼吸が、できない
人が吸い込まれていく講堂が恐ろしくて私はしゃがみ込んだ
そんな私を置いてきぼりに事は進んでいく
K先生が来てくれて「息、吸えなくなった?」と尋ねられ小さく小さく頷いた
「ここにいて、落ち着いたらおいで」 先生はそう言い残してクラスの子がいる方へ向かった
しばらくして遅刻してきた子達も全員が中に入った頃、私は立ち上がって講堂をそっと覗いた
中に入ろうと思っても体が動かなかった
K先生がこちらに来てくれて「ここで聞く?」と尋ねてくれた。小さく頷くと「ほな、講堂から椅子持ってくるわ。立ってんのしんどいやろ?」と言ってくれた
けれど私がその椅子に座ることは無かった
講堂の後ろ側と私との距離なんて10数歩
そんな束の間で私の瞳は潤み始めた
先生が戻ってきて私に「先生、ここにいた方がいい?それともおらん方がいい?」と聞いてくれた
首でなんとかここにいてほしいと小さく伝えた
並んで講堂を見ていると人の頭たちがぼやけてきた
視界がどんどん不鮮明になっていく
ぐすん。
鼻をすする音が思ったより響く
涙よ、戻ってくれ
なんて願いは虚しく零れ落ちてくそれらは私のマスクを静かに濡らした
様子の変化に気づいたK先生に「あっち(面談室)行くか?」と尋ねられる
いつもなら絶対に粘る私が今日だけはあっさり負けてその問いかけに頷いた
面談室
「1人になりたい?先生いた方がいい?」とまた聞かれる
私が小さく頷くと先生は隣に座ってくれた
涙声で「どうでもいい話して」と頼んだ
不安で不安で堪らなかった
明らかに現れるこの症状たちと付き合っていける未来が見えなかった
学校や家といった私の世界だけでなく、この世のすべてがひどく恐ろしかった
みんなは真面目に話を聞いてるというのに何を言うと怒られると思った
でも先生はごく真面目なトーンで「どうでもいい話か…」と言いながらW杯の話をしてくれた
たわいのない会話もそこそこに軽く原因究明に入る
私は「目先の不安がない方が不安」と言った
目先の不安 それは大学の合格発表だった
先日あげたnoteの大学に無事合格した
それ故に不安がなくなった
けどそれは違ったらしい
先生は「不安がなくなったわけじゃなくて大学入ってからっていう不安が増えたんやろ?」
そうだ、不安がなくなったんじゃない
ひとつの大きな不安からそれなりの重みを持った大量の不安が見えてきたのだ
今まで囚われていたひとつの大きな不安に隠されていた視界が広がり色んな不安が一気に押し寄せてきたのだ
「大学生になりたくない」「大人になりたくない。こわい」
そう言ってまた涙を流す
そんな私の背中や肩をさすり頭を撫でてくれた
先生がティッシュを取りに行ってくれている間、1人になってふと冷静な私が顔を出す
泣いてるのが恥ずかしくなって、はいと手渡されたティッシュ箱を受け取りながら反対の手で顔を隠すと「見いひんよ」と笑われた
「桜先生とかH先生とかにいつでも話に来たらええやん。卒業したら終わるわけじゃないから。わーって愚痴って帰ったらいいやんか」と言われた
そして「1時間もかからんって言ってはったからそろそろ終わる頃かも。一旦見て教室でSHRだけしてくるな」と言われて頷いた
ひとりになってもやっぱり涙は止まらなくてまた1枚、ティッシュに手を伸ばした
入れなかった悔しさとこの先への不安だけが残った胸は重たいままだった
K先生が戻ってきて連絡事項を伝えてくれた
そして「○○(友達)が水和ちゃんどこにいんのー?って聞いてきたから今ちょっとしんどくて別室にいるって言っといたで」と教えてくれた
「○○、お昼一緒に食べる約束してるんやった!行かな」
涙でぐちゃぐちゃの顔でそう言う私はかなり滑稽だったかもしれない
実際、先生に「行くの!?○○呼んでこよか?」と言われた
私が「気使わすから」と言って首を振ると「そんなんお互い様やろ。水和だって友達に気使うことあるやろ?」と言われて少しハッとした
それでもいつまでもこうしてると本当にダメになる気がしたから勇気を振り絞って面談室を出ることにした
上手く涙が止められないまま出ようとする私
先生が私を引き寄せてくれたからそのまま私は先生の肩に顔をうずめて声を上げて少し泣いた
先生は「話に戻っておいで、あと数年はいますから」と言ってくれた
頷いて唇を噛み締めてみんなの元へ向かった
放課後
びちゃびちゃになったマスクのまま現れた私に友人たちは騒ぐことなく接してくれた
何気ない会話を交わして、誕生日を迎えた友達にはプレゼントを渡し、お昼を食べる約束をしていた友達とはフリースペースに向かった
あぁ、変わらないひとだ
いつものみんなだ
あとどれだけ続くだろうと思うとまた泣きそうになった
けれどこうして変わらずに受け入れてくれる人がいる世界で私は息をしているんだと思うと心がほっとした