灰色の虎のあしあと_イキモノ
灰色の虎と「イキモノ」
僕は「灰色の虎」。
名は「ハイイロ」。
この色の溢れる世界に産み落とされた。
この世界には「イキモノ」と呼ばれる、様々な生物が住んでいる。
その姿かたち、生態は様々で、多少似通った部分があっても、同じ「イキモノ」は存在しない。
イキモノは産まれてすぐ、ひとつの「チーム」に配属される。
僕の配属先は、森の近くにある、色とりどりの草花に囲まれた洞窟をねぐらにしていた。
通称「ヴィレッジ」。これが僕たちのチームの名前だった。
最初に対面したのは、ヴィレッジの副長「白うさぎのハレ」。真っ白なフワフワな体毛に真っ赤な瞳をしたうさぎだ。表情は凛々しく、それでいてどこか可愛らしい雰囲気がある。
「よく来ましたね。待っていましたよ。私のことは『白うさぎ』と呼んでください。」
僕はまだ言葉を話すことも、理解することもできなかった。白うさぎはそれを承知の上、僕に話しかけていた。
僕は白うさぎの表情が和らいだことで「ここは安心できる居場所なのだ」と察した。
白うさぎは暫くの間、笑ったり泣いたり、時々怒ったりしながら、僕の周りをクルクルクルと忙しなく動き回っていた。何か話し声のようなものも聞こえる。僕の他にもイキモノがいるのだろうか?
僕は言葉が話せなかったので時々鳴いたり、泣いたりして、白うさぎを呼び寄せた。すると白うさぎはすぐ飛んできて、お腹をさすってくれた。
僕はくすぐったくて笑った。
僕が笑うと白うさぎも笑った。
白うさぎが笑ってくれると嬉しくて、その日からどうしたら白うさぎが笑ってくれるのか、喜んでくれるのかをよく観察するようになった。
白うさぎはよく働き、よく食べ、よく笑った。特に甘いものが好きだった。甘いものがなくなると不機嫌になるほどだ。
よく笑う反面、よく怒った。
原因は僕だったり、甘いものが無かったりだったが、まだ言葉を理解できない僕には理解し得ない「ナニカ」が原因の時もあった。
僕はそういう時、ただただ泣いた。
泣いて疲れて、眠りに落ちる。
目が覚めると、白うさぎは元の凛々しい顔つきに戻っていた。
そしてまた僕に笑いかけてくれる。
だから僕も、笑った。
白うさぎが笑うと僕も嬉しいからだ。
そんな2匹の日々がしばらく続いた。
白うさぎは僕が「イキモノ」を考える上での基礎になった。
僕は頭の中の辞書にこう書き記す。
「イキモノは時々怒る。でも笑うと笑い返してくれる。笑うと嬉しい。」
そして頭の中でうさぎのマークを描いた。
真っ白な雲が空翔けていくような日は、洞窟の入口で日向ぼっこをする時もあった。
僕は、色とりどりのお花に戯れるのが好きだった。
ポカポカの日向の下、頭の中のうさぎのマークと白うさぎを想い浮かべては、ニョニョと笑った。