見出し画像

【小説】頭抜けて面白かった一編『名探偵のいけにえ』

いつもは心理学、あるいはコミュニケーションにおもきをおいてお話をしているんですが、今日のテーマが「話したくなる小説」です。あるんです、話したくなる小説。僕、大体月に2冊ぐらいは小説を読みます。

今日僕がオススメする「名探偵のいけにえ」という小説は、なかなかおもしろいですね。去年今年ぐらいでは僕の中で一番ヒットしたんじゃないかなと。小説の紹介ってものすごくむずかしいですよね。特にミステリーと言われている分野にあてはまる小説なので、すべてが話せないわけですよ。

けれど、おもしろいんだぞということは話したいっていう。どこまで話していいんだろう、みたいなのを抱えながら、ここから話していこうと思うんですが。

そもそも僕が読む小説は、ほとんどがミステリーです。ミステリーかホラーですね。あと、ちょっとこれ読んでみたら? みたいなところで、不条理ものみたいなものも読んだりするんですが、そこはよほど僕の信用している人たちが「これおもしろいから読んでみなよ」って言われないかぎり不条理ものには手を出さない、みたいなことがあったりしますね。

その不条理ものっていうのも、ミステリーの香りがするものがあると「おもしろそうじゃん!」といって飛びついたりするんですが、ミステリーの香りがしないと、あまり読む気がしない、というところがあったりするんですよね。

それは小説だけじゃなくて、映画・ドラマでも一緒で、よく言うんですよ。「すごいおもしろい映画があったよ!」と言われたときに「何人死ぬの?」とか。「それ、人が溶ける?」とか。しょうがないですよね。そういうのが好きなんですから。

これから紹介する「名探偵のいけにえ」という小説も、そっち系が好きな人にはどハマりするというような感じです。あまりそっち系得意じゃないなっていう方は、ひょっとしたらおもしろくないかもしれないです。とはいえ、ものすごくグロい感じの描写が出てくるとか、そんなことはないですけれども。どんな話かをネタバレしないようにここから話していこうと思います。

まず、タイトル。「名探偵のいけにえ」なんですが、サブタイトルに「人民教会殺人事件」って書いてあるんですよ。

もうこれを聞いた瞬間に思い出しますよね。洗脳・マインドコントロールとか好きなあなたには、ピンときたと思います。そうです、人民寺院事件。アメリカでおこった「人民寺院事件」を正確になぞられているんですよ。

帯にはこう書いてあります。

「奇蹟VS探偵!息つく間もなく繰り出される推理 畳みかけるドンデン返し ロジックは、カルトの信仰を覆すことができるのか?多重解決、特殊条件ミステリの最前線にして極限!圧巻の解決編150ページ!」

と書いてあります。もうこれだけでワクワクしませんか?

帯の後ろ側に書いてある文章も読んでいいと思うので、ご紹介しようと思います。「病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る」、「四肢」は腕と脚のことですね。

「失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園、ジョーデンタウン。調査に赴いたまま戻らない助手を探しに教団へ乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。だが、密室殺人でさえ奇蹟を信じる人々にはなんら不思議な出来事ではない。探偵は論理を武器にカルトの門神に立ち向かう。現実を生きる探偵と奇蹟を信じる信者。真実の神は、どちらに微笑むか?」

ということで書いてあるんですよ。もうこれだけで僕は心を持っていかれてしまいましたよね。

「ジョーデンタウン」「人民教会ジョーデンタウン」っていっただけで、もうバチバチ人民寺院事件じゃないですか。人民寺院事件をご存知ない方のために簡単に紹介をすると、アメリカでカルト教団……カルト集団? 教団かな? をつくったジム・ジョーンズという人間がいるんですね。そのジム・ジョーンズという人がアメリカで一大勢力を築いたんですが、いろいろあってアメリカを抜け出してガイアナ共和国に移ります。

そのガイアナ共和国で「ジョージタウン」という楽園。この小説の元になったものですね。ジョージタウンという楽園をつくって過ごしていたんですが、そこでも問題がおきるんです。

これ細かく話し始めるとすごい長いので、ザッと割愛しますが、最終的にジョーデンタウンに行っちゃった子供たちを探している親御さんたちが政治家に働きかけて、その政治家がそのジョーデンタウンの中で迫害みたいなものがおこっていないかっていう調査に行くんですね。

その調査が入ったことを受けてジョーデンタウンがなくなるかもしれないという危機感を抱いたカルトの教師のジム・ジョーンズが「もうここはみんな楽園に行きましょう」と言って集団自殺するんですよ。大人も子供も。914人だったと思いますけれど。全員が死ぬという事件が人民寺院事件というものです。

映画にもなっているんですよね。僕2つとも映画観ていますが、最後の自決のシーンはグッと迫ってくるものがある。そんな人民寺院事件というのがあって、その人民寺院事件を正確にトレースしているんですよ。

「ジョーデンタウン」ですからね。このジョーデンタウンの教主はジム・ジョーデンですよ。このジョーデンタウンどこにあるかというと、ガイアナ共和国なんですよね。めちゃくちゃそのままじゃないですか。めちゃめちゃそのままの話が書いてあるっていうのも、なかなか。僕本当に人民寺院事件調べましたけれど、結構正確にトレースされている。それがまたドキドキするんですよね。

それにプラスして何がいいって、主人公はさっき出てきた名探偵と書いてある人なんですけれど、名探偵が大塒(オオト)タカシという人なんですが、これがなかなか名探偵じゃないんですよ。

頭のところなので言ってもいいかなと思うんですが、頭である事件がおこります。ある事件がおこって、大塒が「この事件はこういう解決だよ」というのでとうとうと語るんですね。「そうなの?」みたいな解決なんですが、実はそれが当たっていない。はずれている。間違った推理だった、みたいなところから始まってくるんですよ。

なんで間違った推理だったかってわかるかというと、この帯に書いてあった「調査に行ったまま戻らない助手」、この助手の名前がアリモリ リリコという女子大生なんですけれど、このアリモリ リリコが「いやいや、大塒さん。それは違うでしょう」と言って正して、大塒が「ぐぬぬ……」となる。そういうところから出発するんですよ。だから読者のこっちとしては「大塒、名探偵じゃねぇじゃん」と。そんな風に思うわけですよ。

この本ちなみに429ページあるんですけれど、そこがわかるまでに30ページしかかかっていないんですね。だから、あと約400ページを「名探偵じゃないやつがどうやって立ち向かうんだろう?」とかドキドキするわけですよ。このアリオリ リリコという女子大生はすごく優秀なんですよね。で、いなくなっちゃた。それを探しに行く。「大丈夫かよ、大塒。おまえ名探偵じゃないのに行けんのかよ」みたいな風にして行くんですよ。これもまたドキドキするんですよね。

そして帯に書いてあった「ドンデン返しに続くドンデン返し」、まあまああります。正直にいって、最後のドンデン返しは予想できる人の方が多いんじゃないかなと思うんですが、「それでも騙されてみようか」という感じでいいんじゃないかと思ったりします。この小説の帯に書いてある「奇蹟VS探偵」というところですけれど、ちゃんとありますよ。

奇蹟と探偵。大好きなんですよね、僕ね。奇蹟をマジシャンみたいなものが解き明かしていくって。古くは中島らもさんの「ガダラの豚」とか、そういうところでいろんなものを解き明かしていくんですよ。詐欺の手口とか偽占い師の手口とか解き明かしていく。そのものがすごい好きで。僕もちょっと小説を連名で書いているところもあるんですが、それにも入れたぐらい大好きで。これもやります。奇蹟VS探偵。

もうこれぐらいにしましょうかね。

これ以上言ってしまうとネタバレになってしまいますので、やめておきましょう。「名探偵のいけにえ」、新潮社ですね。著者は白井智之さんという方です。第34回の横溝正史ミステリ大賞の最終候補作をもって2014年にデビュー。そこから第69回日本推理作家協会賞の候補になったりとか、いろいろしている方なんですね。僕知らなかったんですけれど、これはおもしろい! ということで話まくってみました。

いいねやフォローをありがとうございます。この記事はVoicy 『聴くだけで「使える」心理学』から抜粋し、読むだけで使っていただける記事として掲載しています。本編音声はこちらから↓↓


いいなと思ったら応援しよう!