旅行番組を見ると涙が出るんです。
旅行番組を見ると涙が出ます。どこか遠くへ行きたいのに行けない自分が浮き彫りにされるので、胸がぐっと締め付けられるような感じがするんです。それだけではありません。テレビタレントが明るく楽しそうに旅行をしている様子を見ると、自分は旅行に行ってもきっと楽しめないんだろうなあ、という気になり、落ち込んでしまうんです。
いいなあ……と羨ましく思う自分と、それが叶わぬことをよく理解している自分とがぶつかり合って、涙が止まらなくなってしまいます。
そんなぼくですが、
旅行をすることになりました。母とふたりきりで。しかも旅の費用はすべて母モチ。ぼくが母の分までお金を支払って親孝行を……というのなら分かりますけどね。25歳にもなって、親のお金で、親と一緒に旅行をします。何だか惨めな気持ちになります。
母はぼくのことを外へ連れ出そうとしてくれているんです。
ありがたいことですよ。
でも、家の外へ出ることに並々ならぬ恐怖を抱いているぼくは、旅行までまだ4日あるというのに、もう緊張し、恐怖を感じ始めています。もはや胸の中には恐怖と不安しかありません。
とにかく人が怖いんです。
とりわけ社会的、社交的な場面がすごく怖い。お店のレジや、飲食店の注文時、ビュッフェスタイルのごはん屋さんで食べ物を取りに行くとき、バスや電車に乗る際カードをピッとやるとき……
ぼくの頭の中は「トラブルを起こさないようにしないと!」という気持ちでいっぱいです。それは焦りとなり、頭を混乱させて、手と足が一緒に出ちゃう小学生の行進のように、ふだんの自分なら簡単にできることが、まったくできなくなってしまいそうになります。その瞬間が、心の底から恐ろしい。
お店のレジで小銭を落としてしまったり、食べ物を取りに行って食器をひっくり返してしまったりといった「凡ミス」を犯す自分の姿が、バババッ……と脳裏を過るんです。
その原因は学生のころに受けたイジメ……でしょうねえ。
学生のころに受けたイジメの記憶は、25歳になった今でも消えないどころか……日に日に強く確かなものとなって脳に定着しているような気がするんです。
学校に行けなくなってから11年も経つというのに、ぼくの頭はまだ中学2年生のまま、まいにち学校に行くのが恐ろしくて恐ろしくて堪らなかった、あのころのままなんです。
ぼくがちょっと口を開けば、その言動はぜ〜んぶ黒板に書かれてしまう。書かれるだけならまだしも、そのセリフをみんなで真似しては、キャハハと笑われていました。
笑われるのが嫌で、学校では一言たりとも喋らなくなりました。そのまま人としゃべることができなくなり、未だに両親とも、兄弟とも、彼女とも……気を使わずありのままにしゃべることはできません。
たぶんこのままずっと……
ぼくは自分のことが大嫌いです。誰かひとり人を殺しても良いという許可をもらったとしたら、間違いなく自分自身を亡き者にすることでしょう。
しかし、ぼくは自分のことを不憫だとも感じているんです。
不憫で可哀想なやつだ。
どうか幸せになってほしいと、切実に、そう思っています。
……その思考がまた不憫で、ぼくの目にはやっぱり涙が浮かぶんです。
著者の言葉。
最近ウツログ(うつなブログ)ばかりでごめんなさい。これでも去年や一昨年よりはだいぶマシになったんです。
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