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伊藤勝男氏の〈B級映画〉論
『B級ビデオ発掘カタログ』(青弓社/1988年)の「P.166~167」より引用。
A級なくしてB級はあり得ないのは必然のこと。としても何をもってB級の定義をするかは定かでない。確かにハリウッド全盛時には、BアクションとかBウェスタンと呼ばれる類の作品はあった。~だからといって短絡的な選択をすれば、B級映画など何一つ魅力のないものになる。~~例えば、B級監督と呼ばれ、B級映画製作者として名高いロジャー・コーマンがいる。この人の作品の評価は別として、製作者ロジャー・コーマンが、まるで神のごとく扱われて“ロジャー・コーマン・プロダクションだから面白い”となる風潮はC級レベルの発想だ。 ロジャー・コーマンの面白さが随所に現われてはいても、駄作、愚作のなんと多いことか。~低い位置に落とすB級ではなく、誇りあるB級とするべきで、それ等の作品に潜在する様々な型での意思伝達、精神性の高さを拾いあげてこそB級の成立はあるだろう。それは、アクションだからB、ホラーだからBという段階ではなく広範囲に亘ってみる視野、思い入れのB級であるべきだ。 我々ファンは、映画に完成度ばかり求めている訳ではない。そのプロセスや、製作サイドの心意気なども重要な部分となっている。送り出す方があれば、それを受け止める方も気構えというものが必要だ。映画は、それぞれの個人的見解で左右する性格を抱いている。それは個々の持つ感性であり、境遇であり、体験であり、時としては教養であり、体調であったりすることもある。――そこを踏んまえた上で、映画そのものが放つ「意志」を受けとめるのだ。~Aランクと称しておかしくない作品を並べてみた。その訳は、未公開、あるいは小劇場での短命に終えた公開など、作品に対する不当性、扱いに対するものだ。いってみれば、立派な作品、魅力ある作品だからこそのB級とするのだ。 低予算で必死に作ったもの、Aを志す力強さを感じたもの、不幸にして陽の目をみなかった力作、観客を娯しませるのに懸命だった作品、なんとかしてみて貰いたい作品――。~本書での紹介作品は、個人的な独断と偏見での作業であることを断っておきたい。~不出来な作品もあれば、古臭くなった作品もある。むしろ欠点の多い作品が大多数を占めているはずだ。~また、いくつかの作品に対して“B級じゃない”の声があがりそうだが、これも関係のないこと、自分にとってのB級は一番にはなれなかった二番手の魅力であり、その精神性(スピリット)にA級を感じることのできるもの、目指しているものでなければ“B級”の冠などつけられるはずがない。伊達や粋狂で「B級」を弄んでいる訳じゃない――。 B級が持つ素晴らしさは、その元気さにある。工夫にある。そして熱意にある。そこを汲みとって、B級作品の魅力を探って貰いたい――。
伊藤氏は「B級監督篇」というコーナー?で、「映画監督としてB級(二流)」という意味ではなく、優れた「B級映画の監督」として、ドン・シーゲルを筆頭に、ウォルター・ヒル、ピーター・ハイアムズ、ジョン・ランディス、ジョン・バダム、J・リー・トンプソン、ジョルジュ・ロートネル、ダミアーノ・ダミアーニ、最後にクリント・イーストウッドの名を挙げています。
↓膨大なフィルモグラフィ
私は本書を1990年代半ば頃に古本屋で購入。映画雑誌などを買ったことがないので、著者の伊藤勝男氏のことも何一つ知りませんでしたが、本書によると「1937年の生まれ」で、2000年までには既に亡くなられているようだ。
映画評論家の山田宏一(1938-)氏、作家の金井美恵子(1947-)氏とは知己。
《伊藤勝男さんは故人.1970年代に「スピーク・ロウ」という喫茶店を経営,団長さんと愛称されていた.映画を自分の目で見ることの大切さを教わった.》 ↓[2000年5月12日 記]
《伊藤勝男さんがやっていたテレ朝通りの伝説のジャズバー「スピーク・ロウ」》 ↓[2015年05月18日]
《当時、僕は音楽評論家の伊藤勝男氏(故人)率いる「スピークロウ」という草野球チームに入っていた。》 ↓[2016.08.23]
◆『B級ビデオ発掘カタログ』の「書影」と、収録された「紹介文」の一部
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https://jp.mercari.com/item/m17965302126
『B級ビデオ発掘カタログ』の姉妹編が『珍作ビデオのたのしみ』(1989年)
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