初心者ラグビー観戦記☆日本代表vsアイルランド代表🇮🇪〜《不屈の魂》を持つ国と〜
1、《不条理》を生きた人々
アイルランド🇮🇪
隣国イングランドの長きにわたる支配を経て独立、現在は金融、製薬、観光等様々な分野で発展を続けている。
イングランドから正式に独立したのは1949年。その20年後、一人の作家が『ノーベル文学賞』を受賞した。
アイルランド人 サミュエル・ベケット
彼の傑作、それは実に難解だ。
戯曲『ゴドーを待ちながら (En Attendant Godot)』。
ざっくりストーリーを説明する。
『一本の道、脇に一本の木が立つ。そこに佇む男二人は、《ゴドー》なる人物を待っている。しかし二人とも《ゴドー》に会ったことはない。』
第一幕のラスト、1人の少年が《ゴドーの伝言》を伝えにやってくる。
《今晩は来られないが、明日は必ず行くから》二人は待ち続けるが、、
結局最後まで《ゴドーは現れない》。
今までこのあらすじしか知らなかったが、初めて最後まで読んでみた。
言葉の一つ一つ、どう捉えても意味が通るし、反面思い違いにも思える。作品のテーマはわかりやすいようで、読後全くわからなくなる。
理性と感情が何層にも積み重なるアイルランド文学に触れて思う。
この国に生きる人の心は、鋭く、深く、そして力強い。
日本からロンドン経由で約14時間、7月の時差は8時間。
私がテレビをつけた時、首都ダブリンは昼12:30になろうとしていた。
(首都ダブリンの名門トリニティ・カレッジの図書館。ベケットも卒業生)
2.SHIZUOKA SHOCK よ、再び。
ラグビー日本代表は、先週6/26に、スコットランドの首都エジンバラで、英国&アイルランド合同選抜チーム『ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ』との試合に臨んでいた。
前半はライオンズのフィジカルの強さに持ち味のスピードを生かせず3トライを献上。後半早々4トライ目を許してからメンバーを交代、それが功を奏して本来のリズムを取り戻す。姫野選手のトライを含め28ー10という結果で試合を終えた。
日本の健闘をどう評価するか、それは『この日』の試合を見て考える事かもしれない。
2021年7月3日
アイルランド代表vs日本代表 会場は、アイルランドの首都ダブリン・アヴィヴァスタジアム
天候は曇り時々雨、最高気温は19度、と予想されていた。しかしダブリンは現地時間10時の段階で14度、天候は雨。
試合前練習の映像は、まるで真冬を思わせるひんやりした空気を感じさせた。
アイルランドは、8人のメンバーがライオンズ遠征に参加していた。とはいえ、例えば今サッカーイタリア代表のBチームに日本代表は勝てるだろうか。
強豪国の控えは、控えであっても一流だ。現在世界ランキング4位。10位の日本には明らかに格上の相手。
テレビは日本代表(以下、ジャパンと表記する)の練習風景を映している。姫野選手が顔をしかめていた。練習中に足を痛めたようだ。
ジャパン、試合前から緊急事態発生❗️
急遽タタフ選手をスタメンに、マフィ選手を控えに入れる、と発表された。心配だ😨😨。
会場は、想像以上にガランとしていた。
アイルランドは、ライオンズ戦の会場スコットランドより、一層厳しい入場規制を定めていた。
50000人以上入るスタジアム、この日は3000人以下に抑えられていた。
三層に分かれたスタジアム、二層目は完全に空けてある。
ポツンポツンと日本人サポーターの姿が見えた。留学生、企業駐在員の方々だろう。
割とあっさりと両チームは入場してきた。
初めに《君が代》が流れる。
次いで、アイルランド選手が歌う。あれ⁉️二曲流れたぞ⁉️
実況アナの説明はなかったが、先に流れたのは《アイルランド国歌》だろうか⁉️
というのも、ラグビーでは、英連邦北アイルランドとの合同チームを組むため、通常は国歌を歌わず、
アイルランドラグビー協会の歌『Ireland’s call』
を斉唱するのだが、、
状況がより深刻なのか、あるいはお国柄か、スコットランドより観客のマスク率が高い。ただ歌う時だけ外してしまうオッさんも目立ったが。カメラは赤ちゃん連れの家族も何組か映していた。やはりこの国でラグビー観戦は《日常》なのだろう。
この対戦、一応因縁がある。
W杯2019日本大会、静岡エコパスタジアムで、日本代表は当時世界ランキング2位のアイルランドを撃破。
SHIZUOKA SHOCK
と大きく報じられた。
一応、アイルランドには《リベンジマッチ》ということになる。ただ、一年半もコロナ禍の日常を送ると、
W杯の記憶は遥か彼方にある。
今目の前にいるのは、主力が抜けたとはいえ、現在世界ランキング4位、今年行われた『北半球6ヶ国対抗戦=6 Nations』では3位の国。とにかく強豪、それが『今』のアイルランド。
これから始まるのは、日本代表の《現在地》を知る80分間だ。
過去は、所詮過去でしかない。
3.ジャパンの躍動
アイルランドの前半の入りは、なんだかフワッとしていた。
《2週間しかこのメンバーで練習してない》
アイルランドの監督はそうコメントしたらしい。向こうの方々は『言うべきことは全部言う』というお国柄だ。いい訳ということでもない。
たしかにその通りだったのだ。アイルランドの攻撃はどこか甘く、防御もどこか遅れる。連携が今ひとつ取れない。
ジャパンは、ライオンズ戦で絶賛された齋藤選手が先発、速い球出しでスピーディーな攻撃を組み立てていく。
ここで自陣からアイルランドの蹴ったボールはそのまま外へ。
ダイレクトタッチ
このミスを犯すと、蹴った位置からプレー再開となる。早くもジャパンのチャンス!
ラインアウトから早々にアイルランドのペナルティー。
田村選手は長い距離も確実に決めた。
開始わずか3分で 3-0
出だしは順調だ!
ジャパンの快進撃は続く。
キックから一気に敵陣に入ったアイルランド、しかし日本の手堅いディフェンスにジリジリと後退を余儀なくされる。
ところが、、好事魔多し。
攻撃をリードしていた齋藤選手がペナルティーを取られる。
オフフィート。
敵陣に入るとアイルランドは強い!
滑らかにパスを繋ぎ一気呵成に攻め込む。最後はアイルランド13番中央にトライ❗️
アイルランドはキックも決める。
3-7 アイルランド逆転❗️
しかし、アイルランドはまだ落ち着かない。
リスタートのボールをアイルランドは取り損ね、これをきっかけにアイルランドはペナルティー。
ジャパンに再びチャンス。
ラインアウトからモールで押す❗️押す❗️
トライ❗️決めたのは主将のリーチ選手。
田村選手のキックも成功!
10ー7 ジャパン逆転❗️
リスタートのボール。今度はジャパンが取り損ねる。
自陣でアイルランドのスクラム。しかし、アイルランドのペナルティで難を逃れる。
田村選手のキックから再び敵陣に入るジャパン、アイルランドのディフェンスに偏りがあった。
間隙を縫ってフィフィタ選手が走る!
アイルランドのペナルティーも誘い、更に攻めるジャパン。
右へ、左へ、ボールはスピードを増してジャパンの手から手に渡る。アイルランドはボールに絡めない。
田村選手からの絶妙な短いパスをうけたラファエレ選手、そのまま走って飛び込んだ!
トライか⁉️
いや、田村さんのパスはスローフォワードと判定された。
『今の、芸術点でトライです』
ゲスト解説の沢木さん、私が勝手に『ミスター』と呼ぶ沢木敬介キヤノンイーグル監督は、半分ため息混じり、半分嬉しそうにつぶやいた。
ジャパンの攻撃、満更でもないらしい。ミスターはご機嫌だ。
再び攻め上がるのはJAPAN。
しかし、齋藤選手がペナルティーを取られ、再びピンチに。とはいえ、
アイルランドもノットストレートのペナルティーでお付き合い。
お互い決め手を欠くまま試合はしばし拮抗する。
しかし、ジャパンはキック処理をミスする。
これを発端に、アイルランドは一気に前進、画面奥、アイルランドは3人、ジャパンは誰もいないぞ!
マクロスキー選手トライ!
しかしキックは外れる。
10ー12
リスタートのボールをまたしても取れないアイルランド。そしてアイルランドのペナルティー。
ジャパンはショットを選択。
田村選手の蹴ったボールはポールに当たって外に外れた。
依然10ー12 アイルランド2点リード。
日本のペナルティで敵陣近くまで迫るアイルランド、しかし日本がラインアウトのボールをスチール!キックで難を逃れる。
アイルランドまだ本調子ではない。ミスが目立つ。
今度は日本が攻める。再び相手ボールのラインアウトでボールをスチール!
田村選手のキックをフィフィタ選手キャッチ、そのまま走る!
パスを受けたラファエレ選手、アイルランド選手を2人も引きずりながらトライ❗️
田村選手のキックは美しい弧を描いた。成功❗️
17ー12 ジャパン逆転❗️
しかしアイルランドも負けていない。
ラインアウト、モールとお得意の攻めからボールを左へ。ここで松島選手がボール奪取、
田村選手のキックはタッチを割らず、そのままアイルランドは攻め上がる。しかし再びボールを奪取した日本はボールを回し前進を図るが、
松島選手のパスは渡らず外へ。アイルランドボールのラインアウト
その後、ジャパンはディフェンスでペナルティーを取られ続けた。再三アドバンテージを得たアイルランドは自在に動く。。最後は選手達が肉団子となってゴールラインになだれこんだ。
見た目ではわからなかったが。
3番ビーアム選手トライ❗️キックも成功!
17ー19 アイルランド再び逆転!
ここで前半終了。
試合は、緊迫の度合いを高めつつあった。
ハーフタイム。
Jスポーツの放送席。左から実況担当谷口アナ、ラグビージャーナリスト村上晃一さん、もうテレビに映っているのに分析の画面に見入っているミスター。
なぜミスターだけTシャツなのか。知らない人が見ると不思議に思うだろう。
これはキヤノンイーグルスの《セカンドスーツ》。中に《指定の白Tシャツ》を着ることになっている。しかしそんな事多くのファンは気づかない。かくしてミスターは『どうして秩父宮と同じなの?スーツ一着しか持ってないの?』と少なからず誤解され今に至る。イーグルスよ、早くミスターの名誉を回復してくれ。
3.もっとしなやかに、したたかに、
後半が始まった。
開始早々アイルランドの13番のファレル選手が倒れている。中村選手と接触、脳震盪のようだ。しばらく動かない。やはり交代した。
ラグビーはやはりハードなスポーツだ。
『(相手の)センター代わってるからチャンスですね。』
ミスターが言う。彼が入ってのディフェンスの練習が不十分だから、ということだが、、、
ジャパンが獲得したボールは左へ、たしかにガラ空きだ❗️
松島選手から田村選手、
そして、狭いスペースに絶妙な緩さで短くボールを蹴った。
それを掴んで走るフィフィタ選手
そのままトライ‼️
『ウォー‼️ホホホホホ😆😆😆😆』
ミスターが興奮して笑いが止まらない😳😳
田村さんの一連のスキル、Pick and Goというらしい。キヤノン所属の田村さんはミスターの下この練習に励んでいたとの事。
キックも成功!24-19
とはいえ、またしても好事魔多し。
斎藤選手の自陣から蹴ったボールはまたもダイレクトタッチ。
これを機にアイルランドは攻勢に転じる。
とにかく速かった。
敵陣でのラインアウトからボールはすぐ左へ。ゴールラインに飛び込むまで時間はかからなかった。
ファンデルフリーア選手トライ❗️
キック成功!
24ー26 再びアイルランドがリード。
この後だった。
ジャパンに超特大アクシデントが襲う。
松島選手の負傷。
明らかに足首か膝がおかしくなっている。
松島さんといえば、ヒヤリとさせられた直後には、涼しい顔で立っているタフな人だ。しかし
こんなにも苦痛に顔を歪める姿、初めて見た。
その影響もあったのか、ジャパンのディフェンスは乱れた。
アイルランドはラインアウトからすぐ左にボールを出す。
瞬く間にゴールラインは目前に迫った。
トライ❗️
キックも成功❗️
24ー33 9点差❗️ジャパンこれまでか🥲⁉️
いや、気持ちの糸は切れていなかった。
反撃は、マシレワ選手のハイボールのキャッチから始まった。
オフロードパスで受けたマフィ選手が走る!
さらにフィフィタ選手が内に切り込んで、最後にボールを受けたのは斎藤選手❗️
走る❗️
トライ‼️
田村選手が齋藤選手を笑顔で迎えた。
鮮やかな連携だった。
田村選手のキックはもちろん成功!
31ー33 2点差❗️
ここからだった。
アイルランドは猛攻を仕掛ける。ジャパンのペナルティー。
アイルランドはショットを選択。キック成功❗️
31ー36 5点差❗️
残りはあと20分!
ペナルティーを機に再びアイルランドは敵陣に入る。
勢いよくボールを回すアイルランド、小刻みに右に、左に、ジャパンを揺さぶる。
一時は窮地を脱するも、次第にアイルランドがボールをコントロールし始める。
ジャパン、ボールを持って走り込んだマフィ選手が孤立してペナルティーを取られる。
『ナキ(マフィ選手)が悪いっていうよりも、絶対一人サポートしなきゃ(行かなきゃ)いけない選手いるんですよ。忘れてるんです。』
ミスターは怒っている。なるほどそういうものなのか❗️マフィ選手は単独で局面を打開できる。その分彼がボールを持つときは、常にサポートがついて彼の孤立状態を解消しなければならない、ということか。
アイルランドはショットを選択。
キック成功❗️
31ー39 8点差。1トライ、1ゴールでは追いつけない。
残りは10分!
自陣でのラインアウト、しかし堀越選手の投げたボールはノットストレート。チャンスを生かせない。
ボールを右へ左へ広く回すアイルランド。
互いにミスが目立ってくるが、ジャパンはこの時間帯守勢に回っている。
アイルランドのペナルティーにジャパンは久々に敵陣近くまで迫る。
しかし攻撃のスピードがでない。ジリジリと後退させられる。そしてジャパンのペナルティー。
アイルランドはモールで時間を使う。
ジャパンはボールをキープするも、自陣を出られない。
時間はあと1分を切った。アイルランドのペナルティー。
中村選手がキックでボールを外に出そうとするが、、
ボールは外に出なかった。
ノーサイド。
ジャパン、惜しくも勝利を逃す😢。
選手達は互いの健闘を労った。
松島選手は松葉杖をついていた。
世界ランク競合相手に、主力が半分抜けていたとはいえ、8点差。リードする場面も多かった。大健闘、といっていい。
とはいえ、アイルランドは強かった。敵陣に入ってからの名役者ぶり。しなやかに攻撃を組み立て、したたかに得点につなげる。役者は1枚も2枚も上だった。それがまた清々しい余韻を残してくれた。
気持ちいい試合だった。
* * *
あの二人が待ち侘びた『ゴドー』は遂に来なかった。しかし、
『ゴドー』それが単に『待ち望むもの』であるならば、
W杯2015にも2019にも、日本に『ゴドー』はやってきた。
では、W杯2023フランス大会にも、『ゴドー』はやってくるのか。
とりあえず『希望』という木の下で、『彼』を待ってみることにしよう。
まだまだだ、しかし、きっとすばらしいぞ。(白水社『ゴドーを待ちながら』第一幕より)
〜あとがき〜
この試合の解説は、Jスポーツが村上晃一さんとミスター、
BS日テレが、大畑大介さん&私が『ナオさん』と勝手に呼ぶ大久保直弥静岡ブルーレヴズHCでした。
生放送では、前半をBS日テレ、後半をJスポーツ、この観戦記を書くために、録画のJスポーツを再度見ました。
大畑さん、本当にお上手でした。与えられた短い時間の中に沢山の情報量、それでいて早口とも感じさせず、オーバーアクションもなく、しかしラグビーへの高い熱が伝わってきました。日々の情報番組ご出演でいかに鍛えられたのか、その努力の賜物に頭が下がる思いでした。
共演したナオさん、クリアで柔らかい声質、短く言葉を切りながら説明する話し方は聞きやすく、内容もわかりやすくとても楽しめました。それでいてラグビーを見慣れた方にも配慮したコメントが散りばめられた良い解説でした。なによりナオさんの解説は上品で清々しい、むしろNHK向きかもしれません。
ミスターの解説、とにかく初めから『目から鱗』でした。
そんな所を見るのか、そこが大事なのか。
ラグビーとは、無限に存在する小さなピースの組み合わせ、それを実感しました。
聞いて一旦はわかったようで、自分はまだわからない事ばかりだとも実感させる、その意味ではミスターの解説は『ベケット』かもしれません。
去年の春、コロナ禍で日本に帰国できないままスーパーラグビーを転戦する羽目になったナオさんとミスター。それを思うと、お二方がラグビー解説の間とても楽しそうだったのが印象的でした。
そして大畑さんが《ラグビー》で弁舌を振るう姿、なによりファンにはうれしかったと思います。
ワクチン接種も進み、私達にも、少しだけ『明日』の姿は見えてきたのでしょうか。
(日本代表vsナオさん&ミスター率いるサンウルブズ戦の観戦記はこちら💁♀️
日本代表vsライオンズ戦観戦記はこちら💁♀️