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小品 「だらしない乗客」-日常に潜む異常性より

列車が停止してから七分が経過していた。
二〇時四〇分だった。

電力供給も停まっているようで、
車内は真っ暗だった。

仕事を終え、帰る乗客で一杯だった。
乗客は声を顰めながら口口に話していた。
或る者は帰る時間が遅くなると連絡を入れる。
或る者は苛立ちを隠せず溜め息を吐く。

次第に声は大きくなり、
耳障りな音へと変化していった。

どうもこう、背筋が痒くなるような、
何かが這い回るような。

しばらくして電力が供給され、灯が付いた。

周囲は人と同じ大きさをした黄金虫が
座席に腰掛けている。

異様な光景に私は言葉が出なかった。
疲れ果てて足を広げ、必要以上に空間をとって
上を向いている会社員と同じ有様だった。

或る者は二段目の足を腕組みするように眠る。
或る者は足の落ち着く場所が見当たらず、
絶えず足を動かしている。

蠢く足たちと黒光する彼らに吐き気がした。

最寄り駅よりも三つ手前で降りた。


ご無沙汰しております。梔子です。
本編、いかがでしたでしょうか?

こりゃまた突発的に作品を、と思われた方は古くから知っていただいているのでしょう。

今回はシュルレアリスムの感覚で世界を捉えてみました。

私がちょうど電車に乗っていた時、目の前に座っていたサラリーマンがどうもお疲れの様子で…

足を広げて上を向いてだらしないとも取れる姿で寝ておられたんですね。

その姿を見てふと「あぁ、コガネムシだな」と思って、いてもたってもいられず書いたのがきっかけです。

私はどうも何かと虫や爬虫類に例える癖があるようで、「人は蛾である」とか「人は蛙である」とか、言っていることがあります。

そこまで虫や爬虫類に思い入れがある方ではないのですが…無意識でしょうか。

そんな無意識的な感覚や思考をそのまま移しとるようなシュルレアリスムと共通点があると思い、そう言った意味でも今回の作品は気に入っています。

楽しんでいただけたようでしたら嬉しいものです。


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今後とも是非、御贔屓に。

梔子

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