『9segs®︎』のフレームワークを活用して鍼灸院の「成長戦略」を考える(2)
前回は鍼灸院経営のうち顧客分析をどのように行うと成果が得られるのか、「9segs®」というフレームワークについてご紹介しました。
前回の復習
鍼灸院の成長戦略
9segs®を活用することで「戦略➝実行➝効果測定」をフレームワーク上で管理でき、それらすべてが体系だってアプローチすることが可能となります。戦略は、「誰に(Who)、何を(What)提供するのか」を明らかにし、顧客を9つに分類することによって、それぞれの対応が異なってきます。この9つのセグメントごとに分析を行い、最適なアプローチを考えることが鍼灸院経営に求められる”成長戦略”だとお伝えしました。
今回のテーマ
今回は以下のアプローチを説明します。
自院の成長には、どのような顧客を伸ばすべきなのか?
データをもとにして、どのような顧客像をターゲットにするのか?
その顧客にはどのような価値を提供すればいいのか?
その価値はどのようなアイディアで具現化すればいいのか?
施策実行後に顧客動態はどう変化したのか?
1.自院の成長には、どのような顧客を伸ばすべきなのか?
9segs®のなかで自院の成長に欠かせないセグメントがどこなのかを定めます。そのためには来院した患者さんを分析するため、例えば、年齢、性別、来院回数、来院頻度、職業の有無、紹介の有無、診療科別症状分類などの細かな情報や「職場や自宅からの距離が近いから利用している」などの簡素アンケートを実施した結果など管理する必要があります。
また、可能であれば切磋琢磨している他院の調査結果とそれぞれ比較しながら検討できるとより課題が抽出されやすくなります。
例えば、以下のような調査結果が出たとします。
9segs®にプロットされた値を見ながら、「どの顧客のセグメントに強いのか」「弱い部分はどこなのか」「どこを伸ばすべきなのか」といったところを把握することができます。
2.データをもとにして、どのような顧客像をターゲットにするのか?
9つに分類した各セグメントにデモグラフィックなデータを当てはめることによって、顧客像を定量的に切り出して可視化することができます。どのセグメントの誰をターゲットにするべきなのか?ということを議論し、決定していきます。
3.その顧客にはどのような価値を提供すればいいのか?
次に、どういった価値に顧客が突き動かされて、セグメント分類を移動しているのかを明確にするために、それぞれのセグメントで差異分析を行います。これによってセグメント分類を移動する行動変容の要因について同定していきます。
例えば、「ロイヤル顧客だけにこういう傾向があるから、それを他の顧客にも提示すればロイヤル化を促せるかもしれない」といった仮説を立てていくイメージです。
4.その価値はどのようなアイディアで具現化すればいいのか?
ここまで決まったらN1分析(1人の顧客分析の重要性)といわれる手法を用います。
このN1分析の提唱者である西口一希氏は、1人の顧客の徹底した理解から導き出した「アイディア」を起点として、市場セグメント構成にどのような変化をもたらしそうかを可視化・定量化して検証する重要性を説いています。
それぞれのセグメントの中で象徴的な患者さんにデプスインタビューを行い、何らかの特定の情報認知などが「アイディア」を創出する大きなヒントになります。
この調査はサンプル数は少なくてもリアルな顧客理解を促すためのポイントが把握でき、有益な発見も多いです。
「なぜ、顧客が動いたのか?」という行動変容の変化の理由である深層心理に触れない(顧客を把握できていない)マーケティングは必ず、部分最適の連続から縮小均衡に陥るとも説いています。
N1分析の4STEP
インタビューを実施する(質問内容は以下)
当院の認知・来院したいと思ったきっかけ(時系列)
鍼灸への認識・好きな点/嫌いな点
ロイヤル顧客と他の顧客のギャップが生まれた原因やきっかけを探る
離反顧客には、どこに離反きっかけがあったかを掘り下げる
未来院顧客には当院の情報を発信し、どんなきっかけを提供すれば顧客化するかの可能性を探る
カスタマージャーニーを作成する
インタビュー内で顧客と一緒に考えながら作成するのがベスト
認知➝顧客化➝ロイヤル化(離反)の変遷を時系列で描く
縦軸は当院への感覚的な好意度
各地点での背景にある心理状態、どう感じたか、なぜそう感じたかを深く理解する
きっかけから「アイディア」を創出する
想像していなかったような特殊なきっかけや事実を見つけ、具体的な便益と組み合わせて「アイディア」化する
アイディアの「再現性」を確認する
これらの手法は鍼灸臨床の中で取り入れやすいものと考えています。それは、鍼灸治療は施術の間で患者さんとの対話時間が長いため、さまざまな問題を抽出することのできる職種でもあるので、施術中の対話から患者さんの深層心理に迫ることができます。
N1分析の提唱者である西口氏は、手始めにロイヤル顧客層で10人ほど実行すれば、アイディアにつながるきっかけの候補が3つや4つは必ず見つけることができ、重要なのは、「N=10の平均的な発見を求めるのではなく、際立った体験や認知を見つけること」と説いています。
セグメントの中で象徴的な患者さんから抽出された複数のアイディアから、どのアイディアが、どのセグメントに属する顧客にとって有益な施策なのかを考えてから実行につなげていきます。
5.施策実行後に顧客動態はどう変化したのか?
施策を実施して終わりではなく、その施策の効果検証までしていく必要があります。このように1~5の手順を実施し、このPDCAサイクルを回していくことが重要です。その中心にはいつも顧客起点で物事を考え、「戦略➝実行➝効果測定」を行うことで、それが施策が正しかったのかを判断することができます。