泣き虫シナプスを甘くあたたかいココアで迷わせる

母は泣き虫

それで良いと思うし
それは正しい。

私が初めてVancouverに降り立ったのは
寒い2月だった。

空港からホストファミリーの家に向かう
バスの車窓から
自転車に乗る半袖の人を見て
カナダもヤバいなと苦笑いしたのが
第一印象だ。

もれなく1年後の冬
私も半袖で買い物に行っていたのは
余り言いたく無い事実。

とにかく2002年の2月
私は毎日カナダで
誰も知らない街で泣いて暮らした。

明日には飛行機のチケットを取るんだと
毎日毎日、公衆電話を握り
英語につまづき諦める
毎日その繰り返し。

そんな私も
英語でいっぱしの喧嘩が出来るまでになり
言葉なんて通じようと
通じまいと大した事が無いくらいになった。

人がこの世からいなくなるのは
とてつもなく寂しい。
記憶は時に残酷で
遺された物も
時に愛おしく
時に深い海の底に沈めたいほど見たくない。

色んなことで私は泣く。

卵を買いに行ったはずなのに
ふらりと立ち寄ったお菓子コーナー。
チョコパイが安くなっているのを見つけて
ウキウキで買って帰って
ハッと気が付く。

私は卵を買いに行ったはずだった、と。

そんな記憶は軽く吹っ飛ぶくせに
いちいち私の脳内神経細胞のニューロンは
しっかりと
悲しい記憶をシナプスで
色んなものにくっつけている。

んな記憶より
1つでも歴史の年表覚えとけ、私の脳！
と思う。

泣いてると
小さな手がそっと私を抱いてくれる。
4つのあたたかい手に包まれて
私は母でなくただの泣き虫でしかない。

『大人になったら泣かないの』
そう思っていたけれど
そんな事は全くなかった。

失恋はしたことが無い、
そう言うと恋愛のスゲェやつ見たいだけど
本気の恋愛をしたのが1回きりで
愛した人との別れが死だったら
そうなる。

コーヒーHOLICが
甘いココアを飲んでいるのは理由がある。

悲しい記憶に繋がないように
甘いココアに迷わせる。
シナプスの回路を迷わせる。

そんな夜もあって良いじゃないか。

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