『閃光のハサウェイ』~現代視点で再注目~
機動戦士ガンダム・閃光のハサウェイを劇場で視聴したのは3年ほど前。
正直、あまりついて行けなかった。話の整合性を追うのがやっとの有り様。
キャラクターが持っている心情、内情に関してはカステラの如く。そのせいか、少しばかり心残りがあった。なので今回もう一度Amazon Primeで視聴することにした。今度は一時停止を駆使してキャラクターの心象風景をしっかりと浮かべながら視聴した。おかげで3年前よりはまだ心の内を捉えられた。簡潔に記していく。
1.一見するとラブ・ロマンス
劇中でハサウェイとギギの出会いは典型的なロマンチックな邂逅に見える。出会ってからすぐに仲良くなっているように見えるが、実はあまり交わっていない。軽い恋人同士みたいな会話を繰り返してはいるが心の距離はけっこう離れている。距離を離しているのはハサウェイ側だと自分は感じた。理由は彼の過去にあると思われる。
ハサウェイの過去については過去作『機動戦士ガンダム・逆襲のシャア』を観てもらえればわかるので、説明は割愛させてもらう。彼はクェス・パラヤとの出会いが原因で女性観や人間関係の構築に大きな影響を受けていると思われる。その後遺症がギギとの関係性にも表れている。彼自身はギギに対して愛情を持っているかもしれないが、どちらかというとそれは保護欲のようなものではないか。さらに心の距離はそんなに近いようにも見えない。一定の距離感を保っている。親密な関係性を構築することに恐怖心を抱いているのかもしれない。過去のトラウマに対する、ある種の自己防衛機能だ。その個人的な仄暗い感情と大義のために戦う責任感が常にせめぎ合っている。このような面倒くさい心理状態なのでギギともあのようなモヤモヤした仲になっていると思われる。
一方で、ギギ・アンダルシアは正反対と言ってもいい対照的なキャラクターとして描かれている。彼女は恵まれた社会的地位と物質的な豊かさをたっぷりと受けながらも、その内面には深い孤独と自己実現への貪欲さが潜んでいる。何かに向かって突き進んでいる、何かを実現させようとしている、そのエネルギーのようなものは随所で感じる。ただ肝心のゴールポストは見えない。その彼女がハサウェイに惹かれた理由は彼が持っている『反体制的な生き方』ではないだろうか。人間は自分と違うものを持っている人間に惹かれることが多い。正反対な人間性を持つ異性は魅力的に映ることがある。現時点ではしっかり言及はされていなかったが、おそらくはそれなりの恋心があると思われる。
この2人の運命的な出会いを現実の一般人レベルに当てはめると、良いところのお嬢様と通りすがりの不良青年が恋仲になった、といった感じか。抑圧されて自分の人生を自由に謳歌できないお嬢様が欲しがっているのは大体において『解放』である。ギギはハサウェイに解放を求め、ハサウェイは自分には無理だと距離を置こうとしている。劇中は終始そのやり取りが続く。完全にすれ違いのように思われるが、2人は実は直感的な部分では理解しているのでは?とも思わせる。それを言語化せずに行動や態度、つまり、言葉にできない感情で表現している。
2.難解な作品になってしまった理由
ここからはメタ的な視点で考察していく。数人の友人や映画レビューを見て当時も思ったが、理解するのに苦労する作品だ。解説のような語りや表記は一切入らないので、話の筋を理解しようとするとキャラクター達の会話から情報を集めないといけない。しかしその肝心の会話が非常にわかりにくい。
漫画やアニメでよく説明口調などと言われる台詞回しがある。ちょっとした皮肉も入っている表現だが物語を追う創作物にはどうしても必要な表現のひとつだ。あまりにもやり過ぎるとクドくなったり嘘臭くなったりして展開がつまらなくなる。逆に少ないと物語の本筋が分かりづらくなり、観客が疲れる。今作は説明というものが完全に省かれた会話ばかりと言っていい。私達が日常で使っているような口調言葉かと思いきやそうでもなく、一見すると会話が噛み合っていないように見える。上手く表現できないが、いくつか先の会話、あるいは展開を含んでの応答、解答をしているように聞こえる。もしくは、1つの言葉からいくつもの相手の状況、感情、思考を読み取って最適解を最短で返している。印象だけで言えば、詩文でやり取りしている感じだろうか。
このような会話なので何も考えずに視聴していると話が全く頭に入ってこない。キャラクターの行動描写から何をしようとしているのかは何とか理解できるのだが、内面の心象となると、もう無理である。自分のような凡人が内面を理解したいならば、会話のシーンでいちいち一時停止して咀嚼しないと全く飲み込めない。加えて、ハサウェイの人間像がかなり分かりにくいのも原因のひとつ。ギギはミステリアスに見えるが感情や情動をしっかりと表に出すので心の色がわかりやすい。ハサウェイはこの心の色がほとんど見えない。セクシー状態なギギと接していても動揺するシーンは皆無、テロを起こす動機のようなものも見えない。何を考えているのかわからん。こんなに難易度が高い主人公も珍しい。敵キャラクターよりも謎に包まれている。当然、感情移入なんぞできるはずもなく、視聴者の心の乖離を手助けしている。
3.まとめ・英雄譚になるのだろうか?
『閃光のハサウェイ』は原作小説があり、今作はそれをもとにして映像化している。自分は小説は読んでいないので先の展開はわからない。ただ結末は何となく聞いている。自分が好きなハッピーエンドではないらしい。その過程でどんな表現、展開を出してくるのか、それを楽しもうと思っている。それに、オリジナル展開が絶対にないわけではない。もしかしたら原作とは違うハッピーなエンドになる可能性もある。昨今の時代の変化であんまり非道な最後はもしかしたら遠慮されるかもしれない。そういう意味でもラストが楽しみである。
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