自走する人材の育て方
「自走する組織」を目指す企業は多くあります。そして、自走する組織の土台には「自走できる優秀な人材がいる」という前提があります。
しかし、多くの企業にとって「”自走できる優秀な人材”なんてひと握りしかいない。大半の社員は”自走できない”よ」という現実があるのではないかとも感じています。なので、「そもそも、わが社では自走する組織なんて無理なんです!」という声が漏れ聞こえてきそうです。
そこで疑問が浮かびます。本当に「自走する人材」というのは、ごく一部の優秀な人達に限られるのでしょうか?普通の人達では、自走することができないのでしょうか?
そこについて、自分自身の経験をもとに、自分なりの考えを書いてみたいと思います。
大多数の人が、”自走する人材”になれる!
まず、結論を申し上げると「大多数の人材が、自走する人材になれます。要は、そのためのトレーニングを受けたかどうか次第だ」というのが私の考えです。
そして、「トレーニング」といっても決して難しいものではなく、仕事をする上での考え方(マインドセット)を学び(既に社会人になっている人にとっては、マインドセットを修正するイメージ)、自走するためのやり方を理解すればいいだけの簡単なステップです。
なので、経営者やマネージャーの方々から見れば、ほとんどの部下は「自走する人材」に育成することができると考えます。
以下では、社員の方々を自走する人材に育成するための方法論を書いてみたいと思います。方法論を書くにあたって、「なぜ、そうなのか?」をより詳しく説明するために、「自走できない原因」と「私の経験」を書いた上で、「自走する人材に育成するためのステップ」をご紹介したいと思います。
大多数の人が受ける”社会人1年目”の教育
まず、日本において「自走できる人材は多くない!」と感じる最大の原因は、社会人になりたての時に受ける教育だと考えています。
多くの企業において、社会人一年生は「会社や上司の指示に従うこと」をあたり前のように習います。また、「会社や上司に管理され、コントロールされる環境」に身を置きますので、1年もすると「それが常識」というマインドセットになっていきます。この社会人一年目の経験が、ビジネスパーソンとしてのデフォルトとして定着していきます。
これは、多くの日本企業の組織マネジメントが「マネージャーは、部下を統率・管理するもの」という考え方に根差しているためであり、新入社員への教育も当然、それに従ったものになるためです。
そして、2~3年もすると、すっかり「上司の指示を待つことがあたり前」になり、「上司の指示を聞いてから動く人材」が完成することになります。言い換えれば、「自走できるような優秀な人材は少ない」のではなく、「すべての人材を”自走しない人材”に育てている」という方が正しいと思います。
実は、私も自走できなかった!
かくいう私も実は、そうした教育を受け、すっかり自走できなくなった人材でした。
大学を卒業し、新卒で入社した金融機関では、「やるべき仕事」と「そのやり方」が明確に規定されており、それに従って業務を遂行するのが私に与えられた仕事でした。今から考えると、自分のやっている仕事について深く考えを巡らせることは少なく、「こうするのがあたり前」という既成概念に基づいて日々の仕事を遂行していました。
その金融機関で4年半勤務した後、MBA留学を経てゴールドマン・サックス(GS)に入社したのですが、そこで大きなカルチャー・ショックを受けます。
GSでは、「達成すべきゴール」は与えられますが、「そのゴールを、どのように達成するのか?」というやり方は教えてくれません。また、やるべき事を細かく指示されるようなことも一切ありません。
それぞれの社員が、「自分は、これが最善の方法である」というやり方を考え、実行していくことを期待されます。
例えるなら、真っ白な画用紙を与えられ、「これに、人を感動させる絵を描いてください」とお題を与えられるようなイメージです。
何を描くのか? 何を描けば人が感動してくれるのか? それを、どのように発見するのか? そして、どう描くのか?・・・
みんな自分で考える必要がある感じです。
ちなみに、新卒で入社した金融機関の場合には、塗り絵を渡され、指示に従って色を塗っていくようなイメージでした。実質、自分がしているのは「(指定された箇所に、指定された色を)きちんと塗る」という作業だけだったと感じます。
この違いに大きなカルチャー・ショックを受けると共に、当時の私は「どうすればいいのか?」「何をするべきなのか?」と動けなくなってしまったわけです(恥ずかしながら、まったく自走できませんでした)。
当時の私が自走できなかった原因を振り返ると、結局、以下の2つに辿り着きます。
ひとつは、「仕事は、上司から指示されるもの」というマインドセットがあり、それが無意識のうちに自分の発想と行動を制限していたこと。無意識の領域に定着していたマインドセットだったので、自分でも気づかないうちに自分を制御していたように思います。その分、結構やっかいな存在です。人によっては、長い時間苦しめられる原因になるかもしれません。
もうひとつは、「考え方、やり方がわからなかった」ことです。要は、スキルの問題です。未熟だった私は、与えられたゴールを達成するための方法を自分で考え、実行していくのに十分なスキルを持っていませんでした。学問的な知識・スキルというよりも、仕事を遂行する上でのノウハウ・知恵という部分です。
マインドセットとスキル。
私のケースでは、これらが原因でした。そして、それらをカバーすることで、自分で考え、計画を立て、実行していける「自走する人材」へと変わることができたと考えます。
加えて、マインドセットを修正し、スキルを磨くことで、新しい課題を発見し、それをビジネスへつなげていく。仕組み化し、周囲の人を巻き込み、実際に動かしていく、といった次のステージへも移行できたように感じます。
多分、「自走できない人材」と判定されている人達の多くは、私と同じ原因でそう評価されているのではないかと思っています。すると、私と同じようにマインドセットとスキルを改善することで、「自走する人材」へと変身することが可能になります。
要は、発想を切り替え、一定のスキルを学べば、人はどんどん伸びていくということです。
自走する人材を育成するためのステップ
私の経験をもとに、私なりに考える「部下を”自走する人材”へと育成するためのステップ」は、以下になります。
1. マインドセットを「自走する人材」に必要なものにする
2. 自走するための「考え方」「やり方」を理解する
3. リスク管理をする
4. 経験(特に、成功体験)を重ね、自信を持ってもらう
まず、マインドセットを「自走する人材」に必要なものにすること。
私が考える自走する人のマインドセットとは、「自分で課題を発見し、自分でその解決策を考え、自分でそれを実行する。これが仕事の基本的なやり方だ」といった考え方を持つイメージです。
ただ、これはそれぞれの会社の風土を反映すると思いますので、それぞれの会社が「これが当社の社員に持ってほしいマインドセットだ」というものを定義するのがいいと思います。
そして、新卒者の場合には、そのマインドセットをインストールする。既に社会人経験のある人材で、「仕事は、上司から指示されるもの」といったマインドセットが既にインストールされている場合には、それを「自走する人材」バージョンに入れ換えること。
「仕事は、上司から指示されるもの」というマインドセットを持っている人材の場合には、マネージャーがマインドセットの入れ換えについて積極的に話をすることで、スムーズなトランジッションをサポートすることができると思います。このフェーズにおいて、意外に時間を要する人がいたりするので、結構大切なフェーズです。
自走するための「考え方」「やり方」を理解する。
これは、知識として頭に入れるという意味です。例えるなら、これから出会う難題に備えて、知識という武器を早めに身に付けてもらうイメージです。
実際には、先輩社員やマネージャーが持っている「考えるスキル」「問題解決能力」を、早い段階で新しい人材に移植する仕組みを作っておくということだと思います。
加えて、(上記で不足する場合には)研修を行い、新しい「考え方」「やり方」を身に付けてもらうのがいいと思います。
個人的には、コンサル的な思考法を知ったことで、仕事がすごくやりやすくなりました。例えば、「問題は細かく分解すると解きやすい」「問題を構造化すると全体像が見えやすい。例えば、表層・その背後にある事情・その事情をつくり出している構造、といった具合に」「すべてを精緻に決めてから動くよりも、とにかくやってみて、その反応や結果によって次どうするかを決めていく方が効率がよい(=アジャイル的)」などの考え方・やり方がとても役に立ちました。
いずれも「学問」というよりは、「仕事をする上でのコツ」といった感じでしょうか。いい武器を身に付けると、その後の対処が格段に楽になります。
リスクを管理する。
社員の方々が自分で考え、自分で動く場合、リスクになるのが突拍子もないことをやってしまう人が現れる、という点です。
このリスク管理が必要になります。
効果的な方法は、2つです。
ひとつは、メンター制度。
先輩社員をメンターとしてアサインすることで、土台になる仕事の仕方を学んでもらうやり方です。近い目線で「自走する仕事のやり方」を学んでいただくこととあわせて、「越えてはいけない一線」や「疑問を持った時の対処法」などリスク管理についての意識と行動もあわせて学んでもらう取り組みです。
もうひとつは、「疑問を持ったら、とにかく周囲の人に聞く」ということを徹底して習慣化すること。シンプルなことですが、非常に効果のあるリスク管理方法です。メンター制度の中で、これも習慣化することができると思います。
経験と成功体験。
やはり最大のトレーニングは、自分でやってみること。そして、経験を積むことです。中でも、成功体験はすごくパワフルな経験になります。
成功体験は自信を生み出します。そして、自信は、自ら考え、自ら行動する自発性・自律性を加速させます。その加速が経験値をさらに増加させ、自走する優秀な人材へと押し上げてくれるというサイクルが回りやすくなります。
これら4点が整備されると、「自走できる人材」への育成はすんなりと進むと考えます。
まとめ
このエントリーでお伝えしたい最大のポイントは、「大多数の人は、トレーニング次第で自走できる優秀な人材に変身する」、「そこを見逃していて、人材のポテンシャルを活かしていない企業がとても多い」という2点です。
また、上記したように、日本企業の多くは「上司が、部下に指示をする。上司は、部下の仕事の進捗を管理する」という発想がデフォルトになっています。その延長線上に「指示待ちをする社員」があるわけなので、そのあたりの「発想の転換」が肝になると思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。自分の経験も含め、「自走できる人材を育成する」ことについてまとめてみました。何か役立つところがあれば嬉しいです。