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やっぱり企業文化は、経営の最重要テーマ!

企業文化の大切さは、多くの経営者の方々が感じておられることだと思います。しかし同時に、企業文化についてほとんど注意を払われない経営者の方々もたくさんおられます。

以下では、(限られた観察範囲ですが)私の観察や経験から企業文化について、いくつかのポイントをまとめてみたいと思います。

そもそも企業文化って何?

ここで言う企業文化とは、「この会社では、こうするのがあたり前」と社員の方々に共有されている思考や態度のことです(ここでは、この定義に沿って話を進めます)。

社員の方々が共有する「あたり前」なので、企業文化は社員の方々の働き方を司る力を持っています。もちろん、良い企業文化もあれば、良くない企業文化もあります。そして、企業文化は、その企業の業績、働きやすさなどの職場環境、社員の方々の定着率など、企業経営の重要な要素に大きな影響を与えます。

企業文化が生まれるメカニズム

企業文化は、どのように生まれるのか?

そのメカニズムについて、自分なりの観察をまとめてみます。

まず、社員の方々の思考や行動は、その企業の中にある「この会社では、こうするのが正しい(と評価される)」という上席者や周囲からの評価によって決まります。そして、その評価は、その企業の土台にある「価値基準」によって決まっていきます。

整理すると、以下のような流れです。

① その企業には土台となる価値基準がある

② それに基づく評価(基準)がなされる

③(どう評価されるかによって)社員の方々の思考や行動が決まる

④ その思考や行動と、それに対する評価が繰り返され、「この会社では、こうするのがあたり前」として定着していく

メカニズムとしてはとてもシンプルなのですが、ここへいろいろなノイズや人間模様が加わることで、評価基準が歪められ、当初の意図とは異なる社員の方々の思考や行動が生まれてくることがあります。それが繰り返されると、意図しない思考や行動が企業文化として定着してしまい、その企業の社員や組織を蝕んでいくことになります。

また、良い企業文化を生み出すよりも、悪い企業文化が発生することの方が遥かに簡単でありますし、良い企業文化を維持・発展させるよりも、悪い企業文化が取って代わる方が遥かに容易でもあります。そのため、企業文化は大きな影響力を持つ要素であると同時に、育成・維持・発展させることがとても難しい「取扱いに細心の注意が必要な要素」でもあります。

企業文化に注意を払わないと、どのようになるのか?

しっかりとした企業文化が存在しない企業は、(少なくとも中長期的には)社員や組織がうまく機能しなくなる可能性が非常に高いと考えます。そのため、企業文化に注意を払うのは、トップ・マネジメントの重要な仕事だと考えます。

この件について、とても印象深いケースがあります。

ある大手外資系金融機関の関連会社であるA社の事例です。A社は、ある大手外資系金融機関の新規事業部門として設立された会社でした。その大手外資は企業文化を重視することで有名な会社で、企業文化への投資が継続的に行われ、強い企業文化を誇っていました。そのため、その大手外資には優秀な人材が集まり、常に変革を続ける柔軟でレジリエンス力の高い組織が出来上がっていました。もちろん、業績も好調で、業界のリーディング・カンパニーとして君臨していました。

その大手外資の子会社として設立されたA社。マネジメントは外部から招聘された優秀なチームで組織され、斬新な事業戦略を描き、果敢に実行する行動力のあるマネジメント・チームでした。そのため、A社の事業は順調に立ち上がり、親会社(大手外資)が想定している以上の結果を出していきました。

ただ一点、A社が親会社と違っていたところは、A社が(親会社のような)企業文化への配慮や投資を行わなかったことです。それは、A社のマネジメント・チームの中に企業文化への認識がそれほど高くなかったことと、新規事業の立ち上げ期という非常に多忙な時期であったことが要因でした。

事業スタートから3年ほどした頃から、A社の中にいろいろな綻びが目立つようになります。

まず、優秀な社員が辞めていくようになります。そのため、戦力が大幅にダウンしました。

また、顧客からの不満やクレームが多く寄せされるようになります。しかし、それに対してA社の各部署が迅速に動くことはありません。部署間で責任をなすりつけ合うような態度が多く、問題に誠実に対応する社員が誰もいない状況です。もちろん、顧客満足度も低下していきます。

加えて、新しいプロダクトの開発が進まなくなりました。新しいプロダクトの投入ができないため、売上げが伸び悩んでいきます。

中でも、A社が最も「弱さ」を露呈したのは、劣勢が明確になって以降のA社の対応です。劣勢を挽回するための戦略や対策を組み立て、実行するべき局面において、現場から新しいアイデアが生まれてきません。リーダーシップを発揮して、アイデアを生み出し、その実現に奔走する現場社員がいません。多くの現場社員は、自分が責任を背負うことを嫌がり、イニシアチブをとらない。自分の仕事に使命感と責任感を持って、それを遂行する現場社員がいない状況です。

結果、トップ・マネジメントがどれだけ声を張り上げても、現場が思うように動かないという状況が続いていました。もちろん、A社の売上げや利益は下降線を辿っていきます。

A社の凋落の直接的な原因は、プロダクト開発の遅れや戦略実行の能力が弱かったことですが、本質的な原因は「動かない社員」であり、「連携しない部署」でした。そして、社員の方々をそうした思考や行動へと誘っていったのは、A社に定着していた「企業文化」でした。

A社にそうした企業文化が定着していくプロセスは、概ね以下のような経過であったと思われます。

まず、A社は新規事業を行う会社として設立されたこともあり、一部の親会社からの出向社員と多くの中途入社の社員という構成でスタートしました。中途入社の社員達は、それぞれが元の職場にあった企業文化をまとったままA社での仕事をスタートします。中には、「責任回避」や「他人の足を引っ張る」社員も存在し、そうした悪い習慣に無防備でいる他の社員は、時に大きな落とし穴にハマってしまうという事例が少なからず発生しました。

そうしたことが繰り返されるうちに、A社の中には「自分の身は自分で守る」「そのためには、自分の仕事以外のことに口出しをしない」「他人を信用しない」といった空気が生まれていきます。

本来なら、こうした「不正義」を正し、「正義が常に評価される環境」をつくるのがマネジメントの仕事なのですが、A社のマネジメントはそこで後手に回ってしまいました。特に、現場におけるこうした企業文化の発生や定着は、トップ・マネジメントからは見えにくいという点もあり、後手に回ることがよくあります。A社の場合も、トップ・マネジメントが気づいたのはずっと後になってからでした。

そうしたことが重なり、A社では「社員は、責任を極力回避したがる」「チームワークがなく、責任をお互いがなすりつけ合うような気質がある」「いつも部署間の仲が悪い」といった企業文化が根付いてしまいました。そして、その企業文化が、A社の危機においても社員が正しく動けない原因になってしまったわけです。

企業の中にどのような企業文化を醸成するか、それにいつから取り組むかは、トップ・マネジメントの最重要課題であり、その企業の将来を大きく左右する意思決定になります。

A社のケースは、やはり最初からしっかりとした企業文化の醸成に時間と労力を割くべきだったと考えます。それが、事業立ち上げ期の戦闘力をより高める要因にもなったと考えます。

部下や組織が思うように動かないのは、企業文化が原因かも?

マネジメントの中には「部下が(組織が)思うように動いてくれない!」と感じておられる方も多いのではないかと推測します。

その場合、貴社の企業文化に問題がある可能性があるかもしれません。そういうケースにおいては、企業文化が生まれるメカニズムを使って(逆算して)、問題の原因を探る方法が効果的です。

具体的には、以下のようなステップです。

① 社員の思考や行動の中にある問題点を取り上げる

② 社内にある「何をすると評価されるか?」を点検する

③ 会社の土台にある価値基準を点検する

ある企業(B社)のケースが、とても好事例です。

B社の経営陣は、「社員の多くが受け身で、自律的に動いてくれない!」という強い問題意識を持っておられました。経営陣は、社員の方々に対して「積極的にアイデアを出す」「自発的に行動する」といった態度を称賛し、「社員は、そうあるべき!」と呼びかけていましたが、社員の方々はなかなかそのようには動いてくれません。そこで、「社員の方々の思考や行動に影響を与えている要因」について”点検”を行った事例です。

B社の場合には、年次や役職を重んじる風土のある企業だったのですが、その風土が「年次の下の社員が、年次の上の社員と異なる意見を主張する」ことに対して大きな抵抗となっていました。後輩や部下が、自分とは異なる意見を主張することを好ましく思わない先輩や上司が少なからず存在し、それが日々のコミュニケーションの中に反映されていました。

例えば、「上司の指示には忠実に従うべき」「先輩の意見は尊重しろ」といった言葉や態度です。そのため、多くの社員に「先輩や上司の顔色を伺う」「余計なことは言わない・しない」といった態度が定着していました。これでは、「自律的に動く社員」は生まれてきません。

B社が、「自律的に動ける社員」を実現するには、まず「年次や役職を重んじる」という価値基準を再定義する必要があるように思います。「先輩や上司を敬う」ことと「先輩や上司と異なる意見を言うこと」はまったく別ものであり、「異なる意見を言う」と「敬う」が両立することを明確にする必要があります。

その上で、再定義した価値基準を社員の方々全員に理解してもらう取り組みをすること。その価値基準に基づいた思考・行動に修正すること。それらを実現した先に、「自律的に動ける社員」という課題解決があるように思います。

社員の方々の思考や行動を変えるためには、目に見える部分だけを修正するのではなく、ずっと背後にある真の原因まで遡って見直す必要があります。

まとめ

企業文化は、社員の方々の思考や行動に影響を与えることを通して、その企業の業績に大きなインパクトをもたらします。従って、企業文化はマネジメントが最も力を入れるべき要素のひとつだと考えます。

マネジメントが企業文化に注意を払わない場合でも、そこには何らかの企業文化が生まれてきます。注意を払わないほど、意図しない企業文化(多くの場合、企業にとってネガティブな企業文化)が生まれる可能性が高まります。ネガティブな企業文化は、組織の機能を低下させ、業務の遂行を大きく妨げる要因になりかねません。非常に注意が必要です。

そして、万一「部下が(組織が)思うように動いてくれない!」と感じる場合、そこには意図しない企業文化が生まれている可能性があり、その企業文化が「思うように動いてくれない」という部下の思考や行動に影響を与えている可能性があります。「思うように動いてくれない」という部下の行動から逆算することで、「どこに、その行動を生み出す原因があるのか?」を探し出す取り組みがとても有効だと思います。

以上が、企業文化についての私なりの観察でした。


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