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人を笑顔にする科学 / 幸せの強制収奪
「恐ろしい話もあったものだな」
ネットニュースをみていて、そう呟いた。
顔認証技術が差別的な扱いに利用されているという内容だ。
世界のどこかの国では、科学技術がそんなことに使われいるらしい。悲しいことだ。
科学や技術は、人を幸せにするためにこそ使われるべきだろう。
しかし、使い方によっては、不幸を生み出し、またそれを助けることにも使われてしまう。
科学や技術自体には、いい悪いはない。しかし、その使い方にはいい悪いはあるのだ。
幸いにして、この国では、幸福のために科学技術が使われている。
ーーランチを済ませ、オフィスに戻る。
そして、広いオフィスを見合わしても、皆が笑顔だ。
仕事中だというのに、みな、笑顔をたやさずに、微笑みながら仕事をしている。
これもすべて、科学技術のおかげだ。先ほどネットニュースになっていた顔認証技術も、使い方によってはこんなふうに生かされることができるのだ。
みな、笑顔を絶やさない。
なにもないときも。ずっと笑顔を絶やさない。
幸福を指数化することは難しいが、人が笑顔で過ごす割合が多い人、幸福感は当然高い。
笑顔でいることで、幸福感を感じるという研究もある。
そのため、笑顔で過ごす時間が、その人の幸福を示す一つの指標となるといえる。
それを図るのに顔認証技術は打って付けだった。
オフィスにも街にも、もはやカメラには事欠かない。
そして、AIはつねに人の微笑みを監視する。
そして、一定以下の水準となった場合は警告が発令される。
政府の方針のもと、企業や自治体は一定以上の笑顔率に人々にするようにハッパをかけた。
また、政府もこの技術が人を幸福にするという風潮のもと、支持を得るために笑顔率を高めるために巨額の投資を行なった。
その結果がこれだ。
笑顔でいないければ、笑顔でいるように「教育」が施される。
だから人々はそれを疎み、常に笑顔でいることを意識した。
今日も、だれもかれも笑顔だ。
どこかの国とは大違いだ。
やはり、科学技術は、人を幸福にするに使うべきなのだ。