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ある日突然、誹謗中傷の冤罪で、
「相談に乗ってほしいんです……」
そう大学の後輩に相談された。
その子――彼女は大学の同じゼミの後輩だ。
いつも明るくハツラツとした印象の彼女のそんな低いトーンの声を聴いたのは初めてだった。
一見しただけでなにかあったらしいことがわかり、俺は彼女と落ち着いたカフェに入った。
「実は、私が誹謗中傷をしているらしいんです」
「は?」
頼んだコーヒーが運ばれてきたところで彼女はようやく話し始めてくれた。
聞くと、彼女のうちに名誉棄損の訴状が届いたのだという。
まさか・・・という表情をしてしまったのだろう。
彼女は即座に否定した。
「私はしていません・・・!」
「ご、ごめん。びっくりしちゃって・・・」
あわてて彼女が謝ってくる。
「す、すみません。でも信じてください。私はなにもしていないんです」
いつもの元気さはどこかにして、彼女は震えながら語ってくれた。
その訴状の送り主――誹謗中傷し、名誉棄損をされたという相手と彼女は面識もないらしい。
相手は連日の誹謗中傷について開示請求を行い、その結果、それを行っていたのが”彼女”だと言っているらしい。
「なるほど・・・」
「一体、どういうことなのか・・・こういったことを誰に相談していいかもわからず、先輩に・・・すみません」
「いや、それはいいよ。でも、どうして・・・君はSNSはやっているの?」
「SNSは・・・少しだけやってます。でも! そういったことには・・・本当に些細な日常の投稿とかちょっとメッセージのやりとりをするくらいにしか・・・!」
「あ、ごめん。もしかして、ウィルスとかハッキングとか・・・俺も詳しくはないけど、そういったもので君がやったように見えさせられているんじゃないかとおもってさ」
慌てて誤解されただろうことを否定する。
普段の彼女の人となりを多少なりとも知っているが、とてもそんなことをしているとは思えない。
そして、今の彼女の怯えた様子からもそれはわかった。
「え・・・・?」
「ほら、開示請求で君のところの情報が出たというんなら、それはそうなのかもしれない。
でも、本人がしていなくても、勝手にそういった投稿を君のアカウントとか、君の携帯端末やPCからされているのかもしれない」
「・・・そんなことが」
自分もそういったことにあまり詳しくないため、聞きかじりの話だったが、彼女を安心させることはできたらしい。
誹謗中傷はSNSでは日常茶飯事だ。それに対して開示請求からの訴訟なども増えている。
そのため、狡猾だったり、そういうのが得意な人間は誰かになりすまして、罵詈雑言や誹謗中傷をするらしい。
そこまで人に悪意を向けられるのも大したものだが、それで巻き込まれるのが赤の他人というのは明確な悪意があると言えるだろう。
落ち着いた彼女は「わたし、どうしたらいいでしょうか・・・?」と言ってきた。
「そうだね・・・ちゃんとした公的なところとかに一度相談してみたらいいんじゃないかな? ともかく一人で抱え込まないほうがいいよ」
「・・・・・はいっ!」
そうしてようやく彼女はいつもの明るさを少し取り戻してくれた。
「しかし、アカウントをもっているだけで巻き込まれることがあるなんて災難だな・・・俺も気を付けないと」
「そうだ。先輩もこのSNSやっていますか?」
「ん?」
そういって彼女は自分のSNSを見せてくれた。
「あの、よかったらアカウント教えてくれると嬉しいです」
彼女は少し気恥ずかしげに、聞いてきた。
が、俺は彼女のスマホに映る画面から目が離せなかった。
【死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね】
見えたのは表現することも憚られる罵詈雑言。彼女のSNSアカウントは、誰彼構わずに罵詈雑言を浴びせていた。
「それは、」
「え?」
俺がその画面を見ていることに気づいても彼女は気にしない。
悪びれない。
ああ、そうか。
彼女は誹謗中傷をしていない。
彼女は誹謗中傷と思っていない。
きっと彼女は悪いと思っていないのだ。