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絶望した怠惰な男の成功術 / サボタージュの行き着く先
かつて男は野心に溢れていた。
そして才覚にも溢れ、勤勉だった。しかし、それは会社にとって不要だったらしい。
もっと効率的なことをやろう、といって無視された。
正しくないことに対して、反論したが、煙に巻かれた。
改革を断行しようとして、邪魔をされた。
程なくして男の心は疲れ切った。
もはやなにもやる気にならなくなった。
いつの間にか仕事も会社が嫌いになった。
「くそったれ」
それから男は怠けることにした。
仕返しだ。
成果を求める会社に不利益をもたらすために怠惰に怠惰を重ねた。
別に犯罪や実害をもたらすことをやるわけじゃない。
前例にないことをそれを理由に断り、妨害した。
なにか利益になりそうなことをやりそうになったら、難癖をつけるのだ。
ちょっとした瑣末事を重大ごとのように吹聴し、それを理由に中止にさせた。
ちょっとでも早く成し遂げる必要があるプロジェクトについて、手順を重んじるように、もはや形骸化してだれもが忘れていたようなマニュアルを引っ張り出して、それを指摘して、つついた。
会議を重視し、仕事が遅々としか進まないように仕向けた。
全会一致を重視し、物事が停滞するように導いた。
その結果、同業他社に出し抜かれた。
やる気のある同僚や部下の威勢がみるみるうちになくなっていった。
がんじがらめになり、錆びついた歯車のような組織に成り果てた。
しかし、それでもなお、健在といえば健在だった。
なんとしぶといのだろう。
男はいまも会社に在籍していた。
今日もせっせと、怠惰に励む。
今日も針小棒大に騒ぎ立て、重箱の隅をつつき、物事の邪魔をする。
怠惰に励み、続ける日々。
男はその働きぶりを認められ、社長になっていた。