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幸福キャンセル界隈 / 何も感じない低コスパなライフハック

ネットで不味いと評判の食材を買い物かごに放り込んだ。
理由は安いからだ。
それ以外に理由はない。

栄養が取れれば味なんて問題ない。
味を求めなければ、生活コストを下げることができる。

極度に不味ければ食べるのも一苦労するだろう。
が、今の自分には問題ない。
なぜならば味覚をキャンセルしているからだ。

味覚は当然舌から感じるが、その味を実際に解釈するのは「脳」だ。

そのからくりを少しイジればいい。

そうすれば味をキャンセルすることもできる。
いまでは脳にチップを埋め込んで、知覚を操作するのは造作もない。

そんな中、不要な知覚や情報をキャンセルするようになるものが出てきた。

味をキャンセルすれば、味を追い求めるようなことはなくなる。
当然、雑草を極上の味に感じることもできるが、そうなっては無駄に食欲が増すだけだ。
不要な情報はカットするに限る。

そうすることによって食事による楽しみはなくなる。
それを不幸だというものもいるが、それにかけていたリソースを他のことに注ぐことができるのだ。

コスパとタイパ。
両方ともに得だ。

不況に少子高齢化、増税…ただ日々が進むだけで生きづらくなる中で、少しでも楽に生きるためのライフハックというわけだ。

「おい、お前! こんな売上でよく平気でいられるな!!」

昼食中だというのに上司の怒鳴り声が聞こえてきた。
なにか言っている。
おそらく今月の営業成績が芳しくないことによるシゴキだろう。

しかし、俺の耳にはーー正確には脳には届かない。

最初は味だった。味だけだった。
しかし、日ごとにキャンセルすることは増えていった。

いまではもう日々に何も感じない。

ただ生きて、過ごすだけ。
効率よく、低コスパで、日々を生き抜く。

どうせ幸福になれないんだ。不幸ぐらいキャンセルさせてくれ。


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