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醜悪な殺人願望 / VRでの気軽な憂さ晴らし

ガチャリ。

ドアを開く。もう十数年も開いたことのないドアだ。
それは何の変哲もない部屋の一室。

「な、なんだ、お前は!!!」

驚いているのは小汚い男だ。
この部屋に住むーー巣食う卑しい男だ。

引きこもり。
ニート。

一般的にはそう呼ばれ、そう認知されている男。
ネットスラングでは気軽にそう自称する輩もいるが、実物を見ればその醜悪さに目を背けたくなるだろう。

「お前はさんざん好き勝手して生きてきやがって・・・」

そんな男に、押し入ってきた男は侮蔑の目と言葉を浴びせる。
慌てふためく男に向かい、持ってきた金属棒を振り下ろす。

がん! と叩きつけるとニートの男はうめき声を上げた。

「お前のせいで家族はめちゃくちゃだ」

がん!

「父親は出ていき、母親は毎日パートでお前を養うカネを稼いでいる」

がん! がん!

「妹の結婚が駄目になったのもお前のせいだ。誰がニートと家族になりたいやつがいる」

力いっぱいに振り下ろす。男の骨が砕け、肉がひしゃげる。
声はもはや、ただの濁音と吐息になる。

「お前みたいなやつは死ぬべきだ! 生きている価値もない!」

 静かに事実を述べていた声は次第に荒げていき、

「死ね」

 がん! 

 と脳天を砕いて終わった。

 「はぁ・・・はぁ・・・」

 ーーーーーーーーーーーーーー

 びーーとVRディスプレイをディスプレイが終了を告げる。

 いま行った殺人は、ただのゲームだった。
 ストレス解消だ。
 どれだけゴミクズだとしても現実に人を殺すことなどできない。

 だから仮想現実でウサを晴らす。

 スカッとするゲームと考え方は同じだ。
 しかし、現代においての仮想現実のリアリティは現実と見紛うほどのものだ。

 現実に殺したい人を本当に殺すような体験をすることができる。
 気に入らない上司。振られた元恋人。雑な応対をした店員でも、なんとなくTVで見て気に入らなかった俳優でもいい。

 許せない感情をVRならただぶつけられる。

 ウサを晴らすことで生きられることもある。
 ギリギリで発散しないと生きられない人生もあるのだ。

 ガチャリとVRディスプレイを外す。

 その顔は先程自分が叩き潰した顔。
 そして眼の前に広がるのは、さきほどVRが再現していたものと同じく、薄汚れた狭い部屋。

 なんて醜悪な存在だ。

 ああ。自分が許せない。

 自分で自分を壊すことでしか、正気を保てない。

 

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