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友達ができない息子

息子が小学生になって、早いもので2ヶ月が経った。

もうすっかり登下校もひとりでできちゃうし、帰ってきたら言われなくても手を洗う。立派に給食当番こなしちゃったり、音楽の授業で校歌も歌えるようになっちゃったし、宿題だって毎日ばっちりやれちゃってる。
天才。小学生の、天才。

だけど、もう季節も移ろって、みんなクラスメイトの顔と名前も全員覚えちゃったんじゃない?っていうこの時期になっても、息子には友達がいない。


はじめのうちは、わたしも毎日みたいに「今日はだれかとお話した?」とか「お友達できた?」なんて聞いていたけれど、そのたびに「ううん」としっかり首を横に振られるので、不毛だなと思って、その類のことは質問しないことにした。

息子の話によると、彼はクラスのだれとも話さないし、だれとも遊ばない。
休み時間にはいつもひとりで校内を探検して、自由帳に落書きをしたり、図書館で借りた本を読み耽ったりしているらしい。
そして、息子は学校を「楽しい」と言う。

わたしはそんな息子を、いいな、と思う。自由でいいな。
このひとはだれの目も気にならないんだ。
ひとりでいたって平気。自分で自分を楽しませられる。最高で、最強。

きっと、息子もいずれ否応なしに友達関係、人間関係で悩む日がくる。
だれかといっしょにいずにはいられなくなったり、ひとりでいることを恥ずかしいと思うようになったり。それなのに、ひとりになりたいと思ったり。
だから、わたしはいまの息子をとても素敵だと思うし、それでいいと思う。
何より本人が「楽しい」と言っている。
友達なんて無理につくるものじゃない。人生は、このひとといると楽しくてたまらないって思えるだれかにいつか出会えるようにできている。たぶん。

わたしはそんな風に考えているから、保育園のママ友や、息子のことを知るひとたちに近況を聞かれて「息子、学校でぜーんぜん友達できないの!」と笑って話すのだけれど、毎度毎度「大丈夫!はじめのうちはそんなものだよ。いつかちゃんとお友達できるから!」ってめちゃくちゃ励まされる。
ありがとう、でも知ってる。そんでもって、気にしてない。


ある日、息子と家の近くをふたりで歩いていたら、前方から息子と同じ歳くらいの男の子が歩いてきて、すれ違いざまに息子に向かって片手を挙げた。
息子もその子にほほえみ返す。
そのまま振り向きもせず去っていく男の子の背中をしばらく見つめたあと、息子がちいさな声で言った。

「◯◯くん」

「え?知ってる子?お友達?」

「ううん、クラスが同じ子」

え、挨拶してくれたよ、あの子。
友達じゃねーの?それ、友達じゃねーの?

公園に行けば楽しそうに話しかけてくる子がいて、習い事に行けば息子の名前を呼んでくれる子がいる。
わたしの知らないその子たちを息子は「クラスが同じ子」とか「隣のクラスの子」と教えてくれるけれど、決して「お友達」だとは紹介してくれない。

だけど、たぶん。
あの子たちは、息子のことを友達だと思ってくれてるんじゃないのかな?

そんな風に思うけれど、わたしはただ「そうなんだ」と返す。

友達、って何なんだろう?


今日も相変わらず、息子は小学校に友達がいないようだ。

だれかと挨拶をしても、おしゃべりをしても、いっしょになって走りまわっても、
息子は「友達?できてないよ?」と言う。

いったいどんなハードルを超えたら、息子はその子を「友達」と呼ぶのだろう。
たのしいひと、おもしろいひと、すきなひと。
きっとこれまで息子が「友達」と呼んできた子たちは、みんなそうだったんだ。
スペシャルなキラキラをくれる子。息子の友達は、きっとそういう子。

ああ、なんて素敵な出会いをしてきたんだ。

きっとある日突然、そんなだれかに出会うのかもしれない。
もしかしたら、なにかのきっかけでただのクラスメイトだと思っていた子が、特別なだれかに変身するのかもしれない。

いま、ひとりぼっちの息子も最高。
未来の、お友達に出会えた息子も最高。

そんでもって、息子の「友達」になる子も、きっと絶対、最高だ。

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