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[20]精霊牛によせて 三首

牛も馬も
   スーパーにならぶ
   お盆かな

ささげ豆
   へそを目にする
        精霊牛

鼻は獏
 髪は七三
  目は土偶
     ウチのカワイイ
     おしょらさま


仏前にお盆の特別なお膳を供えながら、
母が今年の”おしょらさま”の出来について語る。
”おしょらさま”とは、精霊牛のことだ。
言い訳なのか自慢なのかわからない、
その熱心な説明を聞くのが、
私の毎年の恒例行事だ。

実は今年はスーパーで売ってたから
買おうかと思ったけど、
キュウリの馬もセットだったからやめたそうだ。
お盆にしか売れない、
しかも生鮮品のナスの牛やキュウリの馬を
商品にするとは。
スーパーの商魂に感服する。

そんな経緯もあったようだが、
結局今年もいつものように
母の手作りの”おしょさらま”が供えられていた。


うちの”おしょらさま”はナスの軸の部分が長く残してある。
それが長い鼻のようで、獏に似ていると思う。
理由はよくわからないらしい。
その方が水が飲みやすいからかね、というのが彼女の見解だ。

鞍と尻尾はインゲンだ。
お盆のために春から育てる。
インゲン料理は家族に人気がないので、
ほとんどこの、
おしょらさまを作るために育てるようなものだ。
うちは古い家系でご先祖様が多いので、
鞍は大きめに作るようにしているそうだ。
子どもの頃から、
おしょらさまの背中に大勢のご先祖様が乗っている様を想像する。
ちょっとしたお座敷だ。
リアルな牛でも乗って数人なのに。
いや、そもそもナスだし。
午前ぞ様は実体がない霊だし。
まあ、なんとかなってるんだろう。

足は麻がら。
きちんと立つように作るのはなかなか難しい。
今年は足が短すぎたかも、と反省している。
乗りやすくていいんじゃない、と言ってみる。

耳は南天の葉。
牛にしては長くなっちゃうけど。
よく聞こえていいんじゃない。

目はささげ豆。
べつに決まりはないようだが、
豆が鞘とつながっていた白い筋の部分を
瞳のように見える位置にはめるのが
彼女のこだわりだ。
なんだか土偶のように見えて、
昔から滑稽なような不気味なような、
不思議な雰囲気だと感じていた。
ちなみにこの部分は「へそ」というらしい。
「へそ」を「目」にしてるって。
しかもヘタが、
七三にきっちりセットした髪のようにも見えて、
またなんとも言えない複雑な気持ちになる。

でも、
今年はささげ豆がなくて小豆だけどね、と
少々いたずらっぽく笑う。


幼い頃に父を亡くした彼女には、
お盆の行事ということ以上に思い入れがあるのだと思う。
彼女の母も親代わりだった祖父母ももちろん、
お墓の中だ。
私に説明しながら彼女は、記憶にない父親に、思い出が少ない母に、葛藤が多かった祖父母に、語りかけているのだろう。
プレゼントしようと夢中で作った泥団子について語る子どものように。
少々不格好だったり規格外だったりしたとしても、
この愛情のこもったおしょらさまが喜ばれないはずがないと、
私は毎年、
彼らの代わりに母の説明を聞きながら思っている。

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