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ニナ・メンケス『クイーン・オブ・ダイヤモンド』~虚空を見つめる女性の虚無~

画像(C)1991 Nina Menkes (C)2024 Arbelos

『ブレインウォッシュ』はニナ・メンケスのストレートなメッセージで分かりやすい2022年のドキュメンタリーであったのに比べ、この1991年に作られた劇映画は、なかなかの手ごわさだ。

ハッキリしたストーリーはない。ただただラスベガスで暮らすカジノの女性ディーラーの日常が淡々と映像で示されるだけだ。まるで孤独な映像詩のようだ。シャンタル・アケルマンの退屈な主婦の日常を描いた『ジャンヌ・ディエルマン』を少し思い出す。あの映画は家庭の主婦の日常の反復が描かれ、最後に主婦の怒りが日常の裂け目のように暴発する映画だった。一方、ニナ・メンケスのこの映画は、女性の退屈な虚無しかない。なんの感情も物語も描かれない。ただただ、ディーラーとして煌びやかな光のなかで、退屈なカードゲームの仕事を繰り返し、老人の介護をし、死を看取り、荒野での荒涼とした広がりのある情景が長回しワンカットで描かれる。ディーラーとして働くシーンは延々と17分もカットを細かく割りながら長々と描かれる。カジノの室内の煌びやかな光と喧騒が荒野の情景と対照的である。

冒頭は、枕の上にある赤い付け爪をつけた眠っている女の手が映し出される。そしてカジノにいる女、そして死にそうな老人を介護している場面などが引きの画面中心に、長いワンカットで説明もなく映し出される。荒野で1本だけ立つ木が燃えている予告編でも使われている印象的なシーンがあり、その横で女性が仁王立ちのようにその火を見つめている。そのシーンも、なぜ木が燃えているのか?なんの説明もない。火が燃える音だけが静かに聞こえてくる数分もある長いワンカットだ。あるいは湖を見ている子供や、「ひどい場所になってしまった」と嘆く老人もただただ湖を見つめている。その後ろ姿が引きの画面で映し出される。物語も映像の意図もほとんどわからないまま、ただただ脈絡もなく映像が積み重ねられていく。なにやら磔になった男が逆さで運ばれていく祭りのような場面もあるが、意味不明だ。外階段のあるアパートを女が昇り降りし、その一室で暮らしている女(ニナ・メンケスの実に妹、ティンカ・メンケスが演じている)の日常。夫は3カ月前にいなくなったようだが、積極的に探す風でもない。夜、車通りが多い道を隔てた位置にカメラを置き、車のシャッター越しのベンチに座る男女を映し出す。女(ティンカ・メンケス)の隣に座る男が歌を歌いながら女を口説くが、女は差し出されるタバコを拒否し、男を無視し続ける。あるいは、アパートの隣のカップルが外廊下でケンカをしており、男が女を殴る場面も描かれる。そのDV男が夜中に「うるさい」と戸を叩いて女とその友人に文句を言いに来て、追い返す場面もある。最後は、そのカップルのウェディングパーティーに出て、退屈になって途中で抜け出した女は、ヘッドライトに照らされて道に立つ姿が映され、ヒッチハイクで車を止めて乗り込み、夜の闇に消えていく場面で終わる。

正直、長い長いワンカットに途中何度も眠くなり意識を失ったところもあるが、ワンカットワンカットの映像自体には力がある。夜のベンチや湖で、男に声をかけられるが女は相手にしない。『ブレインウォッシュ』で語られていたような男の眼差しの対象になることを拒否しているようである。そして女は何かをただただ見ているようだ。荒野を、燃える木を、湖を、カジノの虚空を。そして暴力や死を見つめている。そこから何かの行動が起きることはない。ただただ虚空を見ている女が描かれる。


1991年製作/75分/G/アメリカ
原題:Queen of Diamonds
配給:コピアポア・フィルム
劇場公開日:2024年5月10日

監督・製作・脚本・撮影:ニナ・メンケス
編集:ティンカ・メンケス、ニナ・メンケス
キャスト:ティンカ・メンケス、エメルダ・ビーチ

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