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『蛇の道』(1998)黒沢清~オリジナル版の意味不明な不気味さ~

柴崎コウ主演でパリで撮影され製作された2024年版『蛇の道』の1998年オリジナル版。柴崎コウの役を哀川翔が演じ、幼い愛娘を殺された父親役のダミアン・ボナールを香川照之が演じている。カメラはたむらまさき。脚本は高橋洋だ。

<ネタバレあります。ご注意ください。>

精神科医という設定だった柴崎コウは、1998年版の哀川翔では数学の塾講師。難解な数式をいつも黒板に書き連ね、数学の天才的な少女が彼の教室にいて、意味不明な数式のやりとりをしている。そして路上にも少女と哀川翔は数式を書き連ねている。このへんが哀川翔という人物を謎めいたものにしている。特に前半は、哀川翔のことがまったく理解できない。なぜか自転車でやってきて香川照之の復讐を手伝う男として描かれる。一方、リメイク版の父親ダミアン・ボナールに比べて香川照之の前半の狂気は際立っている。香川照之のイカれた感じは『クリーピー 偽りの隣人』でもお馴染みだ。

後半に主導権を握るのが柴崎コウであり、哀川翔であるところは同じであり、オリジナル版は臓器売買グループの話ではなく、単なるヤクザのロリコンビデオ販売という設定であり、哀川翔もまた娘を殺されている過去が最後に明らかになり、ビデオ販売に加担していた香川照之をラストで拘束し、彼の娘が殺されるビデオを復讐として見せるのであった。香川照之は哀川翔の復讐のために利用されたという物語になっている。少女のビデオ映像がオリジナル版の方が強調されている。映像が巷に溢れていなくて、それだけ映像の存在価値が高かったのだろう。また、ヤクザ一味には足の不自由な女コメットさん(砂田薫)が不気味な存在感を出している。意味不明で不気味な感じがするのはオリジナル版であり、より反復構造が強調され、構造的になっているのがリメイク版であり、終わらない復讐という面が強調されている。哀川翔と柴崎コウというまったく異なった役者がそれぞれ主演しているので、2つの作品はほぼ同じ枠組み、構成になっているにもかかわらず、まったく違う印象のなっている。個人的には乾いたコメディ的な笑いの要素はリメイク版の方があり、女性が出ることで「夫婦」の話になっている。一方、感情が表に出てこない哀川翔が演じることで、不気味で意味不明な感じはオリジナル版の方があるかと思う。


1998年製作/85分/日本
配給:大映

監督:黒沢清
脚本:高橋洋
企画:武内健、神野智
製作:池田哲也
プロデューサー:土川勉、下田淳行
撮影:たむらまさき
美術:丸尾知行
音楽:吉田光
照明:佐藤譲
編集:鈴木歓
キャスト:哀川翔、香川照之、下元史朗、柳憂怜、翁華栄、砂田薫、丹治匠、佐藤加奈、、小田彩美、田中瑞穂、森裕悟、新山和敬、小鷲佳敬、臼井秀雄、大島孟

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ヒデヨシ(Yasuo Kunisada)
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