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『アンストッパブル』(2010)トニー・スコット監督の遺作~シンプルなサスペンス・アクション映画の傑作~

画像(C)2010 TWENTIETH CENTURY FOX

この映画はまぎれもないトニー・スコット監督の傑作である。暴走する無人列車の圧倒的な運動感。凝縮された時間のなかで、緊張感のあるサスペンスがリアルタイムで持続し、暴走列車を止めようとする様々なアクションや駆け引きや人間模様が描かれ、そして何よりもデンゼル・ワシントンとクリス・パインの二人の機関士によるドラマが見事に凝縮されている。大仕掛けな特撮やSFXなどなくても、彼らの命を賭した身体的な躍動と身振りのアクションだけで、人を感動させられるし、見応えのある映画に仕上げている。

各車両の手動ブレーキをかけるために走る列車の屋根の上を渡っていくデンゼル・ワシントンは、さらながら無声映画のバスター・キートンのような映画の原点のアクションを見るようだし、「暴走する列車vs人間」という対決は、『2001年宇宙の旅』におけるコンピューターHAL9000の暴走と対峙する人間との戦いとも共通する。人間ならざる暴走機械と化した制御不能の「無人列車」の恐怖は、人智を超えた未知なる巨大な敵に立ち向かう原初の人間の恐怖と戦いでもある。

トニー・スコット監督で前年の2009年に製作された『サブウェイ123 激突』との類似性が見られるが、この映画の方がシンプルなアクション映画になっている。暴走し続ける無人列車こそが、すべての物語の中心なのだから。それはスティーブン・スピルバーグの名を世界に知らしめた傑作『激突!』(1971)を思い起こさせる。あの映画では、迫り来る「1台の大型タンクローリー」が映画の中心だった。その運動感と恐怖だけでサスペンスアクション映画を成立させていた。その才能に世界が驚いた。それと同じように、この映画は止まらない「暴走無人列車」の運動感と恐怖だけで映画を成立させているのだ。「777」という名称の真っ赤な機関車というのも、恐怖を駆り立てている。

もちろん、『サブウェイ123激突』と同じように管制室の女性ロザリオ・ドーソンとデンゼル・ワシントンとの「声」のやり取りや会社上層部との駆け引きの面白さもあるし、テンポが早く動きのあるカメラワークと多彩な映像、二人の機関士の背景となる家族ドラマなど、何一つ無駄がない映画になっている。この作品が、トニー・スコット監督の遺作となってしまったことは残念でならない。


2010年製作/99分/G/アメリカ
原題または英題:Unstoppable
配給:20世紀フォックス映画

監督:トニー・スコット
製作:ジュリー・ヨーン、トニー・スコット、ミミ・ロジャース、エリック・マクレオド、アレックス・ヤング
製作総指揮:クリス・シアッファ、リック・ヨーン、ジェフ・クワティネッツ
脚本:マーク・ボンバック
撮影:ベン・セレシン
美術:クリス・シーガーズ
編集:クリス・レベンゾン、ロバート・ダフィ
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
キャスト:デンゼル・ワシントン、クリス・パイン、ロザリオ・ドーソン、イーサン・サプリー、ケビン・ダン、ケビン・コリガン、ケビン・チャップマン、リュー・テンプル、ギリースT・J・ミラー、ジェシー・シュラム、デビッド・ウォーショフスキー

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