『トゥルー・クライム』クリント・イーストウッド~死刑執行までのカウントダウン~
冤罪事件を解き明かす新聞記者の物語。アクションは、死刑執行まで車を猛スピードで飛ばす場面がある程度。クリント・イーストウッドはカリフォルニアの地元紙に勤めるベテラン記者エベレット。交通事故死した同僚の仕事を引き継ぎ、死刑執行を目前に控えた囚人ビーチャムの取材をするうちに冤罪ではないかと疑問を持ち、死刑執行直前まで走り回って、証拠を見つけ出すというやや出来すぎた話。
6年もの間、裁判所で審議され死刑執行されようとするその日に、新聞記者が突然取材することになって事件のことをちょっと調べて、その日のうちに真実までたどり着いてしまうのだからあり得ないだろうという物語だが、イーストウッドのキャラクターがそれらしく見せてしまう。
酒と女に溺れ、同僚の女性記者を口説き、さらに編集長の妻まで寝取ってしまうヤサグレ記者エベレット。立派なアメ車ではなく、ボロボロの車に乗って、妻や子供にも気を遣って暮らし、走り回る。家族サービスを忘れてフォローしようとするも、事件のことが頭から離れず、娘を動物園に連れて行っても怪我をさせてしまう始末。記者エベレットと娘との関係が、死刑囚であるビーチャムと最後に面会に来た娘との関係と重なってくる。そして真実に辿り着けたのは、母親と死んだ息子との関係からだった。親子関係をテーマにしているのは、『パーフェクトワールド』とも同じであり、イーストウッドの他の多くの映画でもお馴染みだ。家族や親子の愛情というものがベースにあり、それが裏切られ、理不尽なものとなって、その復讐に追い立てられるのも多く描かれるパターンだ。本作は、理不尽にも無実の罪を着せられて死刑執行される黒人男性と家族の悲しみが描かれる。
黒人差別による先入観やバイアスが社会で冤罪事件を生むベースにあるが、イーストウッドは自らの勘と嘘を嗅ぎ分ける鼻を頼りに現場に足を運び、証言者たちの話を聞く。イーストウッドが敏腕記者ではなく、編集長からも上司からもイヤミを言われ、疎まれているあたりがいい。女にだらしがなく、家庭でも中途半端。妻から「出て行ってよ」と言われてしまう情けない男。過去にレイプ事件の記事でも失敗しているらしい。そんなダメ人間だからこそ、ドラマに人間味がある。「家族も幸せに出来ないんだから、誰かを幸せにしてあげてよ」と妻に言われ、記者エベレットは諦めず最後まで奔走する。法律の限界や社会の理不尽さに泣く人々の思いを徹底して描いてきたイーストウッドだが、やや本作は正義のヒーローになりすぎた感じはある。後に『チェンジリング』でも死刑執行の場面を描いていたが、執行場面を衆目が見守る中で遂行するのがなまなましい。悪者が死を迎えることで溜飲を下げる人間の残酷さが、死刑執行場面にはある。
1999年製作/127分/アメリカ
原題または英題:True Crime
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:クリント・イーストウッド
製作:クリント・イーストウッド、リチャード・D・ザナック、リリ・フィニー・ザナック
製作総指揮:トム・ルーカー
原作:アンドリュー・クラバン
脚本:ラリー・グロス、ポール・ブリックマン、スティーブン・シフ
撮影:ジャック・N・グリーン
美術:ヘンリー・バムステッド
編集:ジョエル・コックス
音楽:レニー・ニーハウス
主題歌:ダイアナ・クラール
キャスト:クリント・イーストウッド、ジェームズ・ウッズ、デニス・リアリー、イザイア・ワシントン、ダイアン・ベノーラ、リサ・ゲイ・ハミルトン