『ダーティハリー』シリーズ2~5 ~法の限界を超えた私刑・復讐的暴力の闇
※画像『ダーティハリー4』より
『ダーティハリー2』
第1作で刑事でありながら、現場で拳銃を使い犯人を容赦なく撃ち殺すダーティな仕事ばかりやるハリー・キャラハン刑事を造型し、1作目では最後にバッジを川に投げ捨て、刑事を辞めたはずのキャラハンだったが、シリーズ化となり再び刑事として登場。マイケル・チミノが脚本に参加している。裁判で証拠不十分で無罪になった悪人たちが突然撃ち殺される。そんな巷にのさばる悪人たちが次々と殺されていく。犯人は白バイの警官。法で守られる容疑者の人権に、キャラハン刑事以上に疑問を持つ警察組織内の「悪」を懲らしめる「正義」の殺人者。ワルイ奴らはとっとと殺してしまえばいいという独断。刑事という枠内に収まりきれないキャラハン刑事が、さらに警察の暴力的制裁者のはみ出し者たちをやっつける物語。射撃の上手い白バイ警官たちのキャラが弱い。3人の白バイ警官の仲間たちがいて、最初は顔も出さないから尚更なのだが、さらにそのボスが組織内部にいたという展開。カーアクションあり。拳銃を奪われ丸腰のキャラハンが3人の銃を持つ警官たちと造船所で廃船となった船内の暗闇の中で対決する場面が見どころ。脱線気味のお色気シーンがあったり、殺されたキャラハンの友人刑事や相棒のキャラクター造型も弱く、犯人側の不気味さも物足りない。
1973年製作/124分/アメリカ
原題または英題:Magnum Force
配給:ワーナー映画
監督:テッド・ポスト
脚本:ジョン・ミリアス、マイケル・チミノ
原案:ジョン・ミリアス
製作:ロバート・デイリー
キャラクター創造:ハリー・ジュリアン・フィンク、リタ・M・フィンク
撮影:フランク・スタンレー
音楽:ラロ・シフリン
編集:フェリス・ウェブスター
キャスト:クリント・イーストウッド、ハル・ホルブルック、ミッチェル・ライアン、デビッド・ソウル、フェルトン・ペリー、ロバート・ユーリック
、キップ・ニーベン、ティム・マシスン、クリスティーヌ・ホワイト、リチャード・デボン
『ダーティハリー3』
これは凡作。ハリー・キャラハン刑事の相棒となる刑事はこれまで次々と銃弾に撃たれて犠牲になってきたが、本作でも同じことが繰り返される。街中で起きた強盗事件に車で突っ込み、犯人たちにマグナム44を見舞って解決したキャラハン刑事だったが、店内を破損させた乱暴なやり方が問題視され、人事課へ異動となる。そこで刑事の面接に来ていた女性ムーア(タイン・デイリー)が今回の相棒になるのだが、彼女も最後に犯人の銃弾に倒れ犠牲となる。最初の相棒フランクは、極左の過激派グループが陸軍の兵器庫に押し入った時に撃たれ重傷を負う。病院で死の間際に彼の口から犯人逮捕を託されるキャラハン。彼が人事課にいる間に、黒人グループを誤認逮捕した警察は、再びキャラハンを殺人課へ戻す。過激派グループは、ベトナム帰りのイカれた白人がリーダーだった。市長を誘拐した犯人グループのアジトである脱獄不可能の刑務所として恐れられた〈アルカトラス刑務所〉の廃墟へと向かう。ラストの盛り上がりも欠け、見せ場が少ない。女性刑事ムーアへの台詞、Marvelous・・・”(泣けるぜ・・・)が印象的。
1976年製作/96分/アメリカ
原題または英題:The Enforcer
配給:ワーナー映画
監督:ジェームズ・ファーゴ
脚本:スターリング・シリファント、ディーン・ライズナー
原案:ゲイル・モーガン・ヒックマン、S・W・シュアー
製作:ロバート・デイリー
撮影:チャールズ・W・ショート
美術:アレン・E・スミス
音楽:ジェリー・フィールディング
編集:フェリス・ウェブスター、ジョエル・コックス
キャスト:クリント・イーストウッド、ハリー・ガーディノ、ブラッドフォード・ディルマン、ジョン・ミッチャム、デバレン・ブックウォルター、ジョン・クロフォード、タイン・デイリー
『ダーティハリー4』
なかなかの問題作だ。クリント・イーストウッドが自ら監督している作品だ。脚本がしっかりしていて面白い。海を見下ろせる丘の上の夜の車の中。男と絡み合っていた女が突然拳銃で男の股間を撃つ。次々と同じような股間を撃ち抜かれる連続殺人事件が起きる。この物語は、女(ソンドラ・ロック)の復讐劇がベースだ。姉と妹は、数年前に遊園地の近くの小屋で集団でレイプされた。妹は精神的な障害を抱え入院したまま。姉妹の病院での2ショットが印象的だ。二人とも病室で同じ方向を向きながら、姉はかつての事件に加わっていた男に偶然会って殺したことを伝え、妹はその話を聴いているかどうかわからないまま、瞬きせずにカメラを凝視している。その後、姉はレイプに参加した人間たちを次々と殺していく。キャラハン刑事は、いつものような無謀な捜査が問題視され、マフィアとの街中での撃ち合いに発展し、休暇を取れと言われる。サンフランシスコから離れて北カリフォルニア沿岸の町サンパウロヘ行って、連続殺人事件を追えと言われる。
サンフランシスコの大都会ではなく、海岸沿いの地方都市が舞台となるのが本作の特徴。画家であるジェニファー(ソンドラ・ロック)は、この街での忘れられないかつてのレイプ事件を思い出しながら、遊園地の回転木馬のリニューアルの仕事をこの地で引き受けていた。キャラハン刑事は、ジェニファーと朝の犬の散歩で出会い、次第に事件を背景を探りつつ、彼女への疑惑を深めてく。夜の遊園地がラストの撃ち合いの舞台となるのが見せ場だ。それは、アルフレッド・ヒッチコックの『見知らぬ乗客』の夜の遊園地を彷彿とさせる。まわる回転木馬での逃走劇やジェット・コースターの軌道の上からの犯人が落下。木馬のユニコーンの角に刺さって男は死ぬのだ。性的な隠喩か。海へと転落して死んだと思われていたキャラハン刑事が新型の44オートマグナムを持って逆光の中で歩いて来る場面は、ヒーロー映画そのものだ。海への転落というのも第1作で犯人を川に落として殺したことの反復。今度は自らキャラハン刑事が落ちて、死からの復活。不死身の男だ。この映画でもキャラハン刑事に銃を調達したり、犬をプレゼントしたりする相棒的黒人刑事(アルバート・ポップウェル)が事件に巻き込まれてホテルで殺される。近くにいる人間を次々と死へと追いやる呪われた死神的存在。ただ今回は相棒が犬になっているのが、少し笑いを誘う。
この映画が問題作だと思うのは、ジェニファーの復讐による殺人の罪をキャラハン刑事が最後に見逃すのだ。「加害者の人権ばかり守られるのに、被害者の人権はどうなるの?」とジェニファーはキャラハンに詰め寄る。そしてキャラハンは、連続殺人事件の犯人を別の人間の仕業だと言い、彼女を見逃すのだ。卑劣極まりないレイプ事件とはいえ、復讐による殺人(私刑)を肯定して終わるのだ。復讐(私刑)はクリント・イーストウッド作品の一貫したテーマになっているが、ここまで肯定するのはどうなの?と思ってしまう。それだけ社会が乱れていて、法では裁ききれない理不尽な暴力への反感が渦巻いていたということか。
1984年製作/アメリカ
原題または英題:Sudden Impact
配給:ワーナー映画
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ジョセフ・C・スティンソン
原案:アール・E・スミス、チャールズ・B・ピアース
製作:クリント・イーストウッド
キャラクター創造:ハリー・ジュリアン・フィンク、リタ・M・フィンク
撮影:ブルース・サーティーズ
音楽:ラロ・シフリン
キャスト:クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、パット・ヒングル、ブラッドフォード・ディルマン、ポール・ドレイク、オードリー・ニーナン、ジャック・チボー、マイケル・カリー、アルバート・ポップウェル、マーク・キールーン
『ダーティハリー5』
ハリー・キャラハン刑事は、地元のヤクザの親分、賭博の元締ルー・ジァネロ(アンソニー・シャルノタ)をいつもの強引な手法で逮捕したことで、そのことは報道され一躍有名人になっていた。警察は彼を表彰し、「広報に協力してもらいたい」と言うが、キャラハンは拒否する。ジァネロの部下たちに襲撃されるが、キャラハンはいつものように簡単に片付けるが、上司から文句を言われるのはいつも通り。今回の相棒は中国人のクワン(エバン・C・キム)。アジア人は『2』でも同じアパートの女性が出てきた、いい仲になっていた。今回は有名人が次々と殺されていく事件が起きる。ホラー映画に出演中の人気ロック歌手がまず殺され、その映画監督のピーター・スワン(リーアム・ニーソン)たちスタッフが、アーティストなど有名人の「死亡予想」人物リストを作って、誰が先に死ぬかのゲームをしていたということがわかる。そして、そのリストにある人たちが殺されていく。疑われる監督だが、どうやら監督のホラー映画の狂信的ファンが、監督に逆恨みをして事件を起こしていたことがわかっていく。今回は、ジャーナリストでTVレポーターの女性サマンサ(パトリシア・クラークソン)がキャラハンに興味を持って接近してきて、いい仲になる。サマンサもキャラハンも死亡予想人物リストに名前があり、犯人に狙われることになる。サマンサが狂信的ファンに捕まり、映画撮影の倉庫のロケ現場にキャラハンが乗り込んでいく。爆薬を積んだリモコンカーとのカーチェイスなどあるが、とくに盛り上がらない。キャラハンは、最後は大きな銛を使って犯人を打ち貫くのだった。
1988年製作/アメリカ
原題または英題:The Dead Pool
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:バディ・バン・ホーン
脚色:スティーブ・シャロン
原作:スティーブ・シャロン、ダーク・ピアソン サンディ・ショウ
製作:デビッド・バルデス
キャラクター創造:ハリー・ジュリアン・フィンク、リタ・M・フィンク
撮影:ジャック・N・グリーン
音楽:ラロ・シフリン
キャスト:クリント・イーストウッド、パトリシア・クラークソン、リーアム・ニーソン、エバン・C・キム、デビッド・ハント、マイケル・カリー、マイケル・グッドウィン、ダーウィン・ギレット、アンソニー・チャルノータ
<シリーズを見て>
クリント・イーストウッドの当たり役となった『ダーティハリー』シリーズ(第1作)は、法律で裁ききれない悪をハリー・キャラハン刑事が執拗に追いかける私刑的な暴力の遂行ともいうべき闇を描いてきた。第1作では、それは刑事を辞めざるを得ない虚無を描いたし、第2作では、キャラハン以上の法律無視の暴力を警察内部から起こさせた。犯罪加害者の人権より、被害者の人権はどうなるのだ?とイーストウッド自ら監督した第4作で私的復讐の闇を描いた。いずれにせよ、法律の限界を超えて社会にのさばる悪をマグナム44で撃ちまくってきたのだ。ダーティな仕事を孤独に遂行し、上層部からは強引な捜査方法を責められ、相棒はことごとく凶弾に倒れ、負傷するか死を遂げる。悪を退治した爽快感などなく、地獄へ片足を突っ込んでいるようなものだ。それだけ社会が悪に満ちていること、単純な正義など信じられない時代を描いている。ガラスが粉々に砕かれ、犯人たちは落下し、イーストウッドは走り回り、車を暴走させるアクションが見応えだ。ラストは廃屋のような暗闇で犯人を追い詰め決着をつける。時代が生んだダークヒーローだ。