映画『わたし達はおとな』~リアルな恋愛関係を時間を前後させ、カメラは映し続ける
(C)2022「わたし達はおとな」製作委員会
自身が主宰する「劇団た組」で注目を集める演出家・劇作家の加藤拓也がオリジナル脚本をもとに2022年に映画監督デビュー。舞台『ドードーが落下する』(2023)は、第67回岸田國士戯曲賞を受賞。私も舞台を見たが、若者たちの群像劇で面白かった。私は加藤拓也のことを、NHKドラマ『きれいのくに』を見て注目した。ルッキズムをテーマにした近未来のSF学園ドラマだった。このドラマは第10回市川森一脚本賞を受賞した。
この映画はどこにでもある男女の恋愛関係をとてもリアルな形で描いており、時間を編集で前後させ入れ替えながら描いているのが特徴。この現在の二人の姿があるのに、過去はこんな時もあったというような皮肉が感じられる。二人の男女の関係は、実に脆くあやうく変わりやすいものなのか、ということが如実に示される。主演は『菊とギロチン』がデビュー作となった木竜麻生。
一緒に暮らしている女の子の優実(木竜麻生)が「気持ち悪い」と言っているのに、パンを焼かせて朝食を食べる身勝手な男・直哉(藤原季節)。この優実は直哉に妊娠を告げる。ただ、お腹の子が直哉と一時期別れていた時に関係を持った男性との子の可能性があることを打ち明ける。小津安二郎の『東京暮色』の有馬稲子と同じように、女の子の妊娠がドラマの起点となる。しかも、この現代の映画では、父親が今付き合っている恋人かどうかハッキリしないというのだ。
映画は現在から過去に遡り、4人の女の子がリゾートホテルへ行った時のセックスや彼氏をめぐるエピソード、大学での優実が元カレからプレゼントをもらう場面、そして学校で知人から演劇サークルのチラシのデザインを依頼される優実、そして演劇をやっている直哉との出会いなどが描かれる。再び現在に戻ってきて、直哉は優実に「産んだ方がいい」と言い、優実も泣きながら産むことを決意する。そして、演劇を二人で観に行った時に優実が気持ち悪くなり途中で退席し、その後に二人は喧嘩をする。そしてまた過去に戻り、二人のホテルでの一泊旅行、避妊しなかった直哉、食事を作って待っているのに勝手に一人で食べる直哉と食事をめぐる喧嘩があり、直哉が別れ話を持ち出し、出て行ってしまった過去などが描かれる。直哉と別れた後の寂しさから、飲んで一緒になった男とセックスをしてしまう優実、そこでも避妊してもらえなかった過去が描かれる。そして再び現在に戻り、直哉は優実にお腹の子の遺伝子検査をしたいと切り出す。そんな検査はしたくない優実と再び口論となり、「自分の子かどうかわからない父親になりたくないんでしょ」と二人の長い喧嘩が始まる。
男は優しそうだけど自分勝手で理屈っぽくて、相手のことを考えているフリはするけれど、自分のことしか考えていない男、そしてしっかりと断れず、まわりになんとなく流されてしまう優柔不断な女性の優実。まぁ、どっちもどっちなのだが、まさに大人になりきれない子供のような幼い男女の物語だ。カメラは、そんな二人を長回しで映し続ける。虚構のドラマのようにカット割りで作り込むのではなく、そこにいる二人をじっとドキュメンタリーのようにカメラをまわし続けるのだ。喧嘩で優実がトイレに閉じこもってしまうと、その扉の前で困り果てる男とトイレの中からの女の声とのやり取りが延々と続く。決してトイレの中の女の子の側にカメラは入り込まない。
過去と現在との時間を編集で自由に入れ替えつつ、大人になりきれない身勝手な若者たちの恋愛事情を皮肉を込めてリアルに描いている。ラストは、結局は「誰の子供であるか分からない父親」になることが出来ずに、見せかけの優しさの化けの皮が剥がれ、男は出て行き、女は一人、トーストを焼いて食べるのだ。
2022年製作/108分/PG12/日本
配給:ラビットハウス
監督・脚本:加藤拓也
製作:狩野隆也 松岡雄浩 宇田川寧
エグゼクティブプロデューサー:服部保彦
プロデューサー:松岡達矢 柴原祐一
撮影:中島唱太
照明:土山正人
美術:宮守由衣
編集:田巻源太
音楽:谷川正憲
キャスト:木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ、森田想、桜田通、山崎紘菜、片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太