『ぼくのお日さま』奥山大史~3人の美しき時間~
画像(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS
3人という単位は、映画にとっていいバランスなんだろう。壊れやすく脆くて美しいバランス。私は大好きな映画が3人単位であることが多い。アラン・ドロンとリノ・バンチュラ、ジョアンナ・シムカスの男2人女1人の三角関係の映画『冒険者たち』は大好きな映画だ。ジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』も男2人、女1人の3人の映画だったし、『ダウン・バイ・ロー』は男3人の映画だった。『明日に向かって撃て!」なんていうポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロスの3人の映画もあった。この映画の3人で過ごす場面は、美しい光に包まれて多幸感に満ちている。スケートのコーチである池松壮亮と少年の越山敬達と少女の中西希亜良。アイスダンスに挑戦するため、窓から射し込む光に包まれてスケートリンクで練習する3人、カップ麺を食べながら座ってステップを合わせる3人、車に乗る3人、そして郊外の凍った湖で音楽のリズムに乗ってふざけ合う3人の幸福感は見ていて気持ちがいい。
奥山大史監督は、自らカメラで撮影しながら演出する人で、映像が何よりも美しい。聞くところによると、カメラのサイズ、画角を決めてから、役者の動きの演出をつけるらしく、映像優先の監督といった印象だ。奥山監督の初の長編作品『僕はイエスさまが嫌い』でも自ら撮影を務めていた。岩井俊二の初期の映像にも似ている。ドビュッシーの美しい音楽「月の光」が流れるなかで、スケートリンクを舞う少女さくら(中西希亜良)は、岩井俊二の『花とアリス』の蒼井優のバレエを思い出す。その少女のスケート姿に見とれている少年タクヤ(越山敬達)。そのまっすぐな思いを羨ましく思うスケートコーチの荒川(池松壮亮)は、何かを諦めて北海道の田舎町までやって来た。かつてはフィギュアスケートの期待の選手だった。そしてタクヤにかつての自分を思い出したのか、フィギュアスケートをタクヤに教え始める。カメラと3人の距離感がいい。あるいは二人がアイスダンスの練習をするときのカメラとの距離。動き、舞う二人のスケーティングをカメラは画角にしっかりと収めながら、追いかけていく。
3人の幸福な関係は、少女さくらの荒川への視線によって壊れていく。荒川と一緒に暮らしているパートナーの五十嵐(若葉竜也)と一緒にいるのを見て、荒川とタクヤの関係を複雑な思いで見つめるさくら。タクヤは、吃音があり、上手く言葉が出てこない設定だ。言葉にできないこと、言葉にならないことがこの映画のテーマである。そしてそのさくらの言葉にならない思いが、この3人の関係を壊してしまう。少女が最後に言い放つ台詞はなくても良かったのかもしれない。春になって、町を出ることにした荒川は、タクヤを誘って冬に3人で過ごした湖に行く。2人がその湖を見るバックショットは、ちょっと『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の寂しさを思い出す。どうにもならない現実の空虚感。
スケートの氷を刻む音と窓から射し込む光がとにかく美しい。そして二人が息を合わせるスケートのステップ。その連動する動作。それを見ているだけで、心地よくなる。美しくささやかな世界・時間を愛おしく描いた映画だ。
2024年製作/90分/G/日本
配給:東京テアトル
監督・脚本・撮影・編集:奥山大史
製作:渡部秀一、太田和宏
プロデューサー:西ヶ谷寿一、西宮由貴
照明:西ヶ谷弘樹
録音:柳田耕佑
美術:安宅紀史
編集:奥山大史、ティナ・バス
音楽:佐藤良成
主題歌:ハンバート ハンバート
キャスト:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩