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『リュミエール!』ティエリー・フレモー ~映画の原点と言えるワンショットの感動~

画像(C)2017 - Sorties d'usine productions - Institut Lumiere, Lyon

1895年12月28日パリ。ルイ&オーギュスト・リュミエールの兄弟が発明した撮影と映写の機能を持つ「シネマトグラフ」で撮影された映画「工場の出口」など10本の作品が世界初となる有料映画上映会で上映された。1本の長さが約50秒という短い時間ながら、それぞれの作品で取り入れられた演出、移動撮影、トリック撮影といった撮影テクニックは、現在の映画の原点とも言われている。カンヌ国際映画祭総代表で、リヨンのリュミエール研究所のディレクターを務めるティエリー・フレモーが、リュミエール兄弟が1895年から1905年の10年間に製作した1422本の短編作品から108本の作品を厳選し再構成。4Kデジタルによる修復を施し、90分の作品として完成させた。

(映画comより引用)


50秒ワンシーンワンカット、固定カメラ。カメラはパンなど動かすことは出来ない。50秒以上フィルムを回せない。そういう機械的な限界の中で、世界で初めて撮った映像たち。50秒のうちに何を記録できるか?とリュミエール兄弟は考え、映像を想像しながらカメラを置く場所を決め、回した。工場の出口で、次々と工場から出てくる人々。最後に馬車まで出てくる。駅のホームにカメラを置き、ホームに入ってくる迫力ある列車を捉え、観客を驚かせた。動くもの、運動が、その映像をより生き生きと活気に満ちたものにする。列車、馬車、船などの乗り物のほかに、生き生きと動く人物たち捉えられている。それは街角の広場の通行人や馬車など日常の風景から始まり、労働者たちが働く現場、船の荷下ろしの現場、消防馬車が現場に急行する場面など臨場感あふれる映像もある。あるいは洪水で水が溢れた道や油田の火事などの災害ニュース映像。一方で行楽的な映像もある。海辺の飛び込み台で子どもたちが何度も海に飛び込む動きは魅力的だ。列車のホームへの侵入は、対角線奥から斜め手前に入ってくる奥行きのある映像だが、他にも赤ちゃんが乳母車を押して散歩から帰ってくる微笑ましい行列もまた同じ構図で描かれている。あるいは、船に乗って、列車の窓から、移動撮影も既に初期の頃から試みられている。カメラが動けないのなら、動くものにカメラを乗せて、動く風景を撮るという発想は、今にもつながる魅力的な撮影方法だ。さらに動きが縦の動きと横の動きを同時に捉えていたリ、同じ画面の中で橋の上の道路とその下に佇む人と、その下の水辺で洗濯している女性たちといった3層の動きを捉えた映像もあった。または、赤ちゃんが初めて歩き出す瞬間を捉えた映像では、赤ちゃんが転ぶという展開がドラマを生み出す。予想された動き、あるいは予想を超えた動きが、映像に活力を持たせる。時には曲芸的な技を見せる集団もいるが、一番面白いのは、予想外の動きが捉えられた映像だ。カメラの前に立ってしまった少年をどかすために、傘が突き出てきたり、カメラ前の人をどかすためにカメラマンの手が現れたりもする。

濱口竜介が『他なる映画と 1・2』という本の中で書いているが、リュミエール兄弟が生み出したカメラの記録性、限定した時空間を切り出す記録性は、同時にカメラに映っていない時空間の広がりをまた描き出した。消防馬車が現場に到着して、カメラからフレームアウトして、やじ馬の群集がカメラの画角の外側に視線を向けて群がっていく映像には、画面外で起きていることが映し出されないまま、見るものに想像させる。現代なら、カメラをそちら側にパンをすればその映像は撮れるわけだが、撮れない制約があることで、逆に想像を掻き立てるという表現が生まれる。そのとき起きていることを正確に無感情に記録する映画の「記録性」と、限定した時空間しか描けない「断片性」。この二つが映画の魅力になっているのだと濱口竜介は書いている。「記録性」とはドキュメンタリー性であり、「断片性」とは画面外を想像させるフィクション性である。のちにグリフィスが、この映画の「断片性」を効果的に使って、フィクションの世界を作り上げていったという解説がある。

いずれにせよ、リュミエール兄弟の限定された時空間の世界各地の50秒のワンショットのなかに、映画の原点があることに間違いはない。黒い服を着た大人たちが白い雪の上で無邪気に雪合戦している美しい映像も印象的だが、ベトナムの小さな村でカゴの乗り物から後退移動して撮っている映像が感動的だ。珍しいカメラを追いかけて走ってくる裸足の子どもたち。まさに映画そのものがこのワンショットのなかにある。


2016年製作/90分/G/フランス
原題または英題:Lumiere!
配給:ギャガ

監督・脚本・編集:ティエリー・フレモー
製作:ティエリー・フレモー、ベルトラン・タベルニエ
音楽:カミーユ・サン=サーンス
ナレーション:ティエリー・フレモー

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