
『四月』オタール・イオセリアーニ~台詞なしの寓意的なファンタジー~
このところ続けて見ているジョージアの映画監督オタール・イオセリアーニの1962年作品。当時、まだソ連だったジョージアで製作された48分の中編デビュー作。「抽象的、形式主義的」という理由から上映禁止になったそうだ。台詞はほとんどない。音楽と映像の動きのみで表現された実験的な作品。物質文明への皮肉を込めた恋人たちの物語。寓意的な抽象的ファンタジーとでもいうような世界。
まず古い街並みで次々と男たちが椅子やら机など家具を運び出している。そこに若い恋人たちがいて、人目を忍んでキスをしようとする。しかし、次々と扉から出入りする男たちによって、キスが出来ない。女は拗ねて一人で歩きだす。それを狭い路地を先回りして走って待ち受ける男。男は家具を持ち出す男に途を阻まれてなかなか先に行けない。男がなかなか来ないと心配になる女。無声映画のような男女のやり取りが何度か繰り返されて楽しい。二人は丘の上の1本の木の前で愛を確かめ合う。
そして新しく建てられたアパートに越してきた二人。家具を持ち出していた男たちは、この新しいアパートに越したのだろう。古い町並みを破壊して進める近代化。二人の部屋には何もない。向かいのアパートの部屋の窓は開け放たれ、楽器を演奏する者たち、錘を持ち上げ体を鍛えている男、バレエの練習をしている女の子など、窓からそれぞれの生活が垣間見える。抽象的様式的なセット。何もない部屋で、誰にも邪魔されずにいちゃつく二人。そこに管理人が、一脚の椅子をプレゼントする。次第に部屋の中に家具や電化製品が増えていく。扉にも頑丈な鍵が次々とつけられていく。最初は二人がキスしようとすると、蛇口から水が出たり、照明が点いたり、ガスレンジの火が点いたり、不思議なことが起きていた。部屋の中のモノが増えていくことによって、二人のケンカが始まり(ここで初めて二人のケンカの音声が発せられる)、花瓶や皿が割れ、二人は無口になっていく。皿が割れるシーンは、『月の寵児たち』でも象徴的に使われていた。そして、あの丘の上の1本の木も切られてしまう。それがある時、停電をキッカケに部屋の家具を住人たちが窓から投げ捨て、あふれるモノたちを処分することで、元の仲が良かった恋人たちに戻るというお話。まさにわかりやすい寓意。音楽や楽器で様々な音が表現され、音楽をこよなく愛するオタール・イオセリアーニの世界観を感じる。前半のテンポのいいアクションに比べて、後半はやや単調なまったりした感じになっていた。
1962年製作/48分/ソ連
原題または英題:Aprili
配給:ビターズ・エンド
監督:オタール・イオセリアーニ
脚本:オタール・イオセリアーニ、エルロム・アフブレジアニ
撮影:ユーリ・フェドネフ
音楽:スルハン・ナシーゼ
編集:オタール・イオセリアーニ
キャスト:ギア・チラカーゼ、タニア・チャントゥリ
いいなと思ったら応援しよう!
