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ダルデンヌ兄弟が描く生々しい移民の過酷な現実『トリとロキタ』
画像(C)LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINEMA - VOO et Be tv - PROXIMUS - RTBF(Television belge)
ダルデンヌ兄弟の重苦しい現実を描いた観ていて少しツラくなる映画だ。ダルデンヌ兄弟はいつものように容赦がない。アフリカからベルギーに流れ着いた移民である偽りの姉弟が、生きるために力を合わせて必死になっても、過酷な現実は彼女たちを押し潰していく。素人の役者を使っているだけに、なまなましい。
10代後半のロキタはビザが得られないため正規な仕事に就くことが出来ない。ビザを得て家事ヘルパーの仕事に就き、トリと一緒に暮らすことを夢見るが、現実はままならない。金を稼ぐために、ドラッグの運び屋をして性的な要求にも応える屈辱の日々。ロキタは「自分は汚れている」とトリにつぶやく。移民の斡旋業者にもお金を取られ、母に送金するお金もない。姉と弟という設定のため、二人で口裏を合わせてビザ申請の面談に臨むのだがうまくいかない。ロキタはビザの審査がおりないために、さらなる危険な仕事、大麻栽培の世話係をして偽造ビザを手に入れることにする。しっり者の少年トリは、精神的にも不安定なロキタを必死で支えようとし、ロキタはトリを学校に行かせるために、危険な仕事をさせたくない。二人はいつも一緒にいないとダメなのだ。ロキタの大麻栽培の仕事は孤独でトリはロキタのことが心配でならない。ロキタの不安を解消しようと、トリは自分が描いた絵を届けるため夜に自転車を必死で漕ぐ。そして、ロキタが働いている危険な仕事場に果敢に一人潜入するのだが・・・。
ロキタを演じる黒人女性ジョエリー・ムブンドゥは背が高く少し猫背なところ、その不安な表情にリアリティある。トリと一緒にいてふざけ合うときだけ笑顔になるロキタ。二人は偽りの姉弟なのに、一心同体のようだ。トリの自転車を漕ぐ様子や建物に侵入する場面など、ロキタを思う気持ちが伝わってくる。トリは果敢に現実に立ち向かい、何度も「ロキタ、ロキタ」と彼女の名を呼ぶ。二人でアフリカの唄を歌う場面が唯一心がなごむ。
2022年製作/89分/G/ベルギー・フランス合作
原題:Tori et Lokita
配給:ビターズ・エンド
監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
製作:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ、デルフィーヌ・トムソン、ドゥニ・フロイド
撮影:ブノワ・デルボー
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:ドロテ・ギロー
編集:マリー=エレーヌ・ドゾ
キャスト:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アルバン・ウカイ、ティヒメン・フーファールツ、シャルロット・デ・ブライネ、ナデージュ・エドラオゴ、マルク・ジンガ
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