フランソワ・トリュフォーの遺作は、ファニー・アルダンへの愛のサスペンス『日曜が待ち遠しい!」

見ていなかったフランソワ・トリュフォー作品。トリュフォーの遺作だ。1984年52歳で亡くなったトリュフォーの遺作は彼の真骨頂の恋メロドラマではなく、テンポのいいB級ロマンチック・サスペンスだった。当時のトリュフォーのパートナーだったファニー・アルダンのために作られた映画。オープニング、長身でスラッとしたファニー・アルダンが颯爽と歩道を歩く姿がカッコいい。『隣の女』のメロドラマから一転、アクティブで快活な役をトリュフォーは彼女に与えた。

ファニー・アルダン演じる不動産会社の秘書ベルバラが、社長のジュリアン(ジャン・ルイ・トランティニャン) が巻き込まれた殺人事件を解決するため、ものすごい勢いで動き回る。事件が次から次へと起こり、話がどんどんテンポ良く展開する。サスペンス的盛り上がりや事件の犯人の謎解きに面白味があるわけではなく、ファニー・アルダンがジャン・ルイ・トランティニャンから「クビだ」と言われ、彼とケンカのようなやりとりをしながら犯人を突き止め、探偵のように大活躍する映画なのだ。そして最後は恋も大団円を迎える。

なかでも日曜に公演があるビクトル・ユゴー舞台の稽古中に、ファニー・アルダンはその衣装を着たまま、彼のコートを上に羽織り、夜に雨の中、車でニースへと向かう場面は特異だ。 彼女が雨の中、フロントグラス越しに運転しているシーンは、アルフレッド・ヒッチコックの「サイコ」のジャネット・リーそっくり。ジュリアンの妻マリー=クリスティーヌ(カロリーヌ・シホール)がニースで泊まっていたホテルの部屋に行き、何をしていたのか証拠を探る。部屋でコートを脱いで、舞台衣装になり美しい足を披露している。しかし、ニースまで来るのに舞台衣装である必然性は全くない。美脚が大好きなトリュフオーの単なる趣味か?さらに、 ジャン・ルイ・トランティニャンが半地下のくもりガラスの窓越しに、女性の足元を見て愉しんでいるのを知って、彼女自らも外に出て、その窓ガラスの前を行ったり来たり歩いてみせるチャーミングさが、なんとも可らしい。美脚と言えば、最初にジュリアンが妻に離婚を切り出す場面で、妻のカロリーヌ・シホールが新聞を読みながら、脚をわざとらしく組み替えて、ジュリアンの目線を釘付けにする場面もある。美脚好きなんですね~。

さらに、警察がやってきて怪しく思われないために、ファニー・アルダンがジャン・ルイ・トランティニャンに咄嗟にキスをして、「なんのまねだ」と言われ、「映画で見たの」なんて言う場面がある。その後、 ジャン・ルイ・トランティニャンが夜景の見える丘の上で彼女に突然キスすると、「なんのまね?警察はいないわよ」なんて言う微笑ましい場面もある。二人が言い合ったり、相談しあったり、拳銃を突きつけたり、一緒に電話の声を聴いて二人で合点がいったアクションが一致したり、後部座席に彼が隠れて一緒に車で謎を探りに行く場面や、警察に踏み込まれて裏切ったなと思わせたり、二人の関係が離れたりくっついたりコロコロ変わっていく感じがこの映画の一番の見せ場かもしれない。

最初に猟銃で殺された男マスリエは映画館も経営しており、事務所に脅迫電話をかけてきた声が映画館窓口の女の声か確かめるために、今上映している映画、スタンリー・キューブリックの『突撃』の内容を聞く。そんな映画へのオマージュも入れながら、トリュフォーは軽快に二人の関係を演出し映画作りを楽しんでいる。

『日曜は待ち遠しい』という恋映画のようなオシャレなタイトルで、映画の中でファニー・アルダンの台詞があるが、唐突であまり意味がよく分からない。原作のタイトルが『THE LONG SATURDAY NIGHT』で『長い土曜日』なのだそうだ。白黒画面の事件サスペンスものというところが、ヒッチコック的ではある。特に夜のマンションの窓越しにランプの光が浮き上がり、男二人が揉み合っているところをファニー・アルダンが見上げるシーンなど、ヒッチコック映画そのものだ。しかし内容は、トリュフォーのファニー・アルダンへのの映画なのだ。

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