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「A GHOST STORY / ア・ゴースト・ストーリー」デヴィッド・ロウリー監督の家に残り続ける哀しき幽霊

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映像詩のようだ。物語はあるような、ないような。田舎のなかの平屋の一軒家。「この家、何か音がする」と気になっているカップル(ケイシ―・アフレックとルーニー・マーラー)。不安の中で抱き合って眠るふたり。朝もやの中でカメラがゆっくり左から右へパンをすると車が事故に遭って止まっており、その中で男が倒れている。そして病院のベッドに横たわっている夫の死体に対面する妻。やがて妻が夫の遺体にシーツをかぶせて、その部屋からいなくなる。しばらくすると、夫がシーツをかぶったまま起き上がる。

シーツをかぶったゴーストは、 病院内を歩くが誰も気づかない。目に当たる部分はシーツに小さな穴が開いていて、少し嬌のある幽霊だ。病院の壁に光の入り口が現れるが、ゴーストはその中には入らず病院を出て、広い草原のような場所を歩く。そして二人が住んでいた家にやってくる。 帰ってきた妻は差し入れられたパイを食べ始める。そして台所に座りながら黙々と食べる。ゴーストは動くことも怖がらせることもせずに、ただじっと立っている。悲しみを抱えながら食べるパイ。そしてトイレに行って食べたものを吐く。それを長い長いワンカットで映し続ける。そばで見守るゴースト。この長いワンカットが、なんだかせつない。

やがて妻の生活する姿を見守っているうちに、妻に恋人が出来て家を出て行く。妻がいなくなってもゴーストは、この家に留まり続ける。その後、子供たちがいる賑やかな家族が住むようになっても、ゴーストはただそこにいる。子供がゴーストの気配を感じ、玩具の銃で攻撃する。その家族もゴーストがモノを動かしたり、皿を割ったりすることを怖がって出て行く。その後、パーティーがその家で行われ、 ある男が長台詞を言う。ベートーヴェンの交響曲「第九」のことや、人間は生きた証を残したがるとか、すべて物事には終わりが来る、地球も太陽に飲み込まれるから無意味だというようなことを話し続ける。 家には誰も住まなくなり、廃墟となり、それでもゴーストはそこにいる。やがて家が取り壊され、ゴーストは解体された土地に立つ。

ゴーストは一言もしゃべらないし、ただ立っているだけ。動くとしてもゆっくりと動く。誰もゴーストに気づかない。ケイシ―・アフレックが実際にシーツをかぶって演じているのかよくわからない。彼かどうかさえ分からない曖昧な存在として、その家に居続けるゴースト。妻と暮らした場所に囚われ続ける哀れな存在。妻のルーニー・マーラーが家を出るときに柱の間に小さなメモを入れた。子供の頃に引っ越しが多かった妻は、小さい頃からそうやってきたのだと、最初の場面で夫に言っていた。 ここにいたという証。ゴーストは、家が解体されるギリギリの瞬間まで、柱の隙間に入れた紙片を取り出そうとしている。結局、その紙片に何が書かれていたのかは観客には明かされない。そしてその土地にビルが建ち、そのビルの高みからゴーストは飛び降りる。

その後に昔の開拓時代、その土地に家を建てる家族が映し出され、少女がメモを石の下に隠す。その家族は弓で刺されて死に、今度はケイシ―・アフレックとルーニー・マーラーがその家にやってくる場面が映し出される。それを見ているゴースト。そして冒頭にあった夜中の奇妙な音。それは二人が家を出ると決めた後にゴーストがピアノを鳴らした音だった。ゴーストは、二人が引っ越してくる前からいたということだ。前からいたゴーストと死んだ夫のゴースト。妻が出ていく時、二体のゴーストが一瞬同じ画面に映る。ゴーストはそれぞれの家にいる。そして柱の隙間の紙片をついに取り出したゴーストは、その瞬間に消えてシーツだけが抜け殻のようにそこに残る。

家を出て行く妻についていくのではなく、家に留まり続けるゴーストとは、なんなのだろう。『セインツ 約束の果て』でも脱獄してでも土地(家)に戻って来る男の話だった。彼も家には取り憑かれた一種のゴーストなのかもしれない。最新作『グリーン・ナイト』も青年の冒険譚として土地を離れ、各地で試練を経て、騎士となって土地に戻って来る話だ。土地にはそれぞれ伝説の物語=ゴーストもいた。過去の記憶や物語は、土地や家と深く結びついている。妻が新たな人生を選び取って家を出て行ったとしても、死んだ男の幸せな記憶は、いつまでもその家=場所に留まり続ける…。家や土地には、そこにいた多くの人びとの記憶や思いが残っている。それはどこか人間の存在を超えた歴史や時間の積み重なりが、土地(場所)にはあると言えるものかもしれない。

アピチャッポン・ウィーラセタクンの『ブンミおじさんの森』や『メモリア』を連想させた。関連記事を読むと、デヴィット・ロウリー監督はやはりタイの アピチャッポン・ウィーラセタクンが好きなようだ。


2017年製作/92分/G/アメリカ
原題:A Ghost Story
配給:パルコ

監督・脚本:デヴィッド・ロウリー
製作:トビー・ハルブルックス、ジェームズ・M・ジョンストン、アダム・ドナギー
製作総指揮:デビッド・マドックス
撮影:アンドリュー・D・パレルモ
美術:ジェイド・ヒーリー、トム・ウォーカー
編集:デヴィッド・ロウリー
音楽:ダニエル・ハート
キャスト:ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ

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