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『夜、鳥たちが啼く』城定秀夫~夜の孤独を抱えて~

画像(C)2022 クロックワークス

2022年の日本映画である。函館出身で芥川賞に計5回ノミネートされたが、受賞は逸したまま41歳で自殺した作家・佐藤泰志の同名短編を映画化。これまで佐藤泰志原作の映画化は、『海炭市叙景』)(2010年/熊切和嘉)、『そこのみにて光り輝く』(2014年/呉美保)、『オーバー・フェンス』(2016年/山下敦弘)、『きみの鳥はうたえる』(2018年/三宅唱)、『草の響き』(2021年/斎藤久志)、そして2022年の城定秀夫監督による本作である。佐藤泰志原作シリーズはこれまでずっと観てきたし、それぞれ注目されている力のある日本の監督たちが作っているのもあって、これも気になって観た。城定秀夫監督は、『アルプススタンドのはしの方』が注目されて一般映画を撮るようになったが、それまでずっとポルノを撮っていた職人監督だ。この映画でも性描写は濃密であり、見応えがある。子供を寝かしつけた後に、夜、一人でいられなくて出歩く寂しい女、松本まりかと自らの嫉妬深さが原因で恋人に逃げられ、挙げ句の果てに先輩に奪われ、一人悶々とプレハブ小屋で書き続けている作家の山田裕貴。松本まりかは先輩の元妻であり、息子と一緒に山田裕貴は自宅を提供して住まわせているのだ。

恋人と暮らしていたときも家の前にある物置小屋であったプレハブ小屋を小説の仕事部屋にして、家庭内別居状態だった。その過去と現在が交錯して描かれる。小屋の窓から覗く嫉妬の目線。この家と仕事部屋であるプレハブ小屋の関係、距離感が面白い。松本まりか親子が家に住み、家を貸している山田裕貴がプレハブ小屋で暮らす逆転の関係。夜、山田裕貴は冷蔵庫のビールを取りに家に入っていき、少し話をして、またプレハブ小屋に戻っていく毎日。そして夜になると、近所で飼われている鳥が発情してギーギーと鳴く。その発情した鳥の鳴き声と松本まりかの不満が重なっていく。それは生きていることの息苦しさを吐き出すような声にも聞こえる。そんな息苦しい自分を終わらせたいと自分のことを書くこの作家は、佐藤泰志そのもののイメージとも重なって、自意識過剰で自分を持て余している感じがなんともつらい。彼を支えようとしている恋人(中村ゆりか)への苛立ちは、自分自身への苛立ちでもあり、それが暴力的になると見ていて痛々しい。恋人と夫を失った者同士の傷をなめ合うような生活に未来があるのかわからないが、映画は前向きな感じで終わる。佐藤泰志作品としては明るい終り方だ。

家とプレハブ小屋の距離がそのまま、山田裕貴と松本まりかの微妙な距離となっている。二人は近づきそうで近づかない。それが少年の存在によって、少しずつ変化していく。男女の関係に傷つき、どうでもよくなっている二人が、ある夜、プレハブ小屋で情欲を交わす。それは「夜に鳴く啼く鳥」でしかないのか、それとも新たな関係を築けるのか、それは誰にもわからない。ロケ場所と登場人物を限定して、夜の孤独を中心に描いているのがいい。


2022年製作/115分/R15+/日本
配給:クロックワークス

監督:城定秀夫
原作:佐藤泰志
脚本:高田亮
エグゼクティブプロデューサー:藤本款
プロデューサー:秋山智則、姫田伸也
撮影:渡邊雅紀
照明:小川大介
録音:岩間翼
美術:松塚隆史
編集:清野英樹
音楽プロデューサー:田井モトヨシ
キャスト:山田裕貴、松本まりか、森優理斗、中村ゆりか、カトウシンスケ、藤田朋子、宇野祥平、吉田浩太、縄田カノン、加治将樹

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