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『あの頃エッフェル塔の下で』アルノー・デプレシャン~手紙で愛を交わした若きかけがえのない日々~
画像(C)JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS
アルノー・デプレシャンが『そして僕は恋をする』を1996年に撮ってから20年ぶりに同じポール・デダリュスを主人公にして、エステルとの10代後半からの青春時代の熱烈な恋を描いた。フランソワ・トリュフォーにとってのドワネルもの(ジャン=ピエール・レオが演じた)のようなものか。アルノー・デプレシャンにとっては、ドワネルはポール・デダリュスであり、自伝的要素がある存在なのだろう。大人になった姿は『そして僕は恋をする』同様にマチュー・アマルリックが演じている。
フランス映画は「愛」に関する映画が多い。フランソワ・トリュフォーやエリック・ロメールを引き合いに出すまでもなく、さまざまな「愛」が映画で描かれてきた。お互い「愛」を強く求め合い、性愛に対しておおらかでり、寛容でもある。アルノー・デプレシャンにとっても「愛」は重要なテーマなのだろう。デプレシャンはあるインタビューの中で、「この映画は『ティーンエイジ映画』というジャンルに属し」、「このジャンルは、若さが失われてから初めて若さを描くものだから。それは、失われてしまった時代を忘却の底から救い出すためなのです」と語っている。若き青春の日々の思い出を救い出した映画だ。
人生も半ばを過ぎた外交官で人類学者のポール(マチュー・アマルリック)が、長い海外生活を終えて故郷フランスへ帰国するところから始まる。その土地でも女性との関係を「潮時」として別れる場面がある。ポールにとって女性はいつでもそばにいたのだろう。帰国の際にポールのパスポートに問題があり、空港で止められてしまう。ポール・デダリュスという同じ名前の人間がほかに存在しており、共産圏のスパイ容疑をかけられてしまうのだ。そこから少年時代の回想へと移っていく。子供の頃の不安定な母とのトラブル、そして若くして自死した母、父との確執。高校生のポールは親友とソ連へ冒険の旅に出た。ソ連からイスラエルへ移住するユダヤ人のためにパスポートを渡し、盗まれたと証言し再発行してもらったことを思い出す。もう一人のポール・デダリュスが存在する理由。そしてエステルとの出会いと恋が描かれていくのだ。
パリの大学に通う若きポール(カンタン・ドルメールが演じてる)は、妹の同級生で地元のルーベでは憧れの存在であったエステル(ルー・ロワ=ルコリネ)に声をかける。色気があって大人っぽいエステルは、何人ものボーイフレンドを持ち、女の子と話もうまく出来ない不器用で真面目なポールには雲の上のような存在だった。それが少しずつ仲良くなってエステルの気持ちを自分に向けさせていく。『そして僕は恋をする』と同じようにホームパーティーでほか男と一緒に来たエステルとポールとの視線の交わりの芝居があって、明け方の街をポールがエステルを家まで送っていく。夜明けの街を二人で歩くシーンがいい。そして家の前での初めてのキス。真逆のカメラ位置からの切り返しのキスシーンが印象的だ。
女の子には好かれず、男友達ばかり出来る派手なエステルが、ポールと付き合うようになって変わっていく。パリとルーベとの遠距離恋愛で二人は手紙を頻繁に交わし合う。手紙の朗読が交互に繰り返され、カメラ目線のエステルが何度も描かれる。熱烈なる遠距離恋愛をしながらも、お互いにそれぞれの地でほかの相手と関係を持ったりもする。次第にエステルの心理状態がポールと離れていることで不安定になっていき、かつての派手な面影はなくなり、心細そうな不安な女性へと変化していくのだ。ルーベの駅のホームでの別れの場面も印象的だ。そして遠距離恋愛に耐えられなくなったエステルはほかの男性とつき合うようになり、エステルから別れ話を切り出されて二人の恋は終わる。
中年になって久しぶりにパリに戻ってきたポール(マチュー・アマルリック)は、エステルとの昔の手紙を読み返す。そして旧友のコヴァルキと再会したのをキッカケに、エステルとのかけがえのない恋を思い出す。コヴァルキは、ポールの友人でありながらエステルとつき合っていた。その友人の恋人を奪った無神経さをポールは今更ながら怒りにまかせてなじるのだった。
若きポールとエステルが輝いていて美しい。カンタン・ドルメールとルー・ロワ=ルコリネの初々しい裸体が眩しくスクリーンで輝く。エステルが画面を見つめるストップモーションで映画は終わる。
『そして僕は恋をする』が若い男女の群像劇だったのに比べて、本作はポールとエステルの二人の恋に焦点を絞っている。恋人同士としてともにいる時間が描かれることは少なく、ほとんどが遠距離恋愛の孤独と寂しさが描かれている。手紙を通じた架空の視線のやりとり。視線は幻想を彷徨い、恋は幻になる。過ぎ去ったからこそ分かる熱烈なる幻想の恋の日々。
2015年製作/123分/R15+/フランス
原題または英題:Trois souvenirs de ma jeunesse
配給:セテラ・インターナショナル
監督:アルノー・デプレシャン
製作:パスカル・コーシュトゥー
脚本:アルノー・デプレシャン、ジュリー・ペール
撮影:イリナ・ルブチャンスキー
衣装:ナタリー・ラウール
編集:ロランス・ブリオー
音楽:グレゴワール・エッツェル
キャスト:マチュー・アマルリック、カンタン・ドルメール、ルー・ロワ=ルコリネ、アンドレ・デュソリエ、ディナーラ・ドルカーロワ、ピエール・アンドロー、オリビエ・ラブルダン、エリック・リュフ、テオ・フェルナンデス、リリー・タイエブ、ラファエル・コーエン、クレマンス・ル=ギャル、メロディー・リシャール
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