『蜘蛛の瞳』黒沢清~復讐後の虚無的な暴力~
前作『蛇の道』(1998)で娘を殺された新島(哀川翔)のその後を少し設定を変えて描いた作品。娘を殺された新島(『蛇の道』と同じ役名)は6年間犯人を捜し続け、ようやく見つけて監禁し、仕事の合間に殴り続けている。そして拳銃で始末して死体を土の中に埋める。復讐の目的を果たしてしまったあとは、ただ淡々と生きていた。家庭では妻(中村久美)に何も語らず、二人で食事する日々。家の中はいつも暗い。
あるとき、かつての同級生の岩松(ダンカン)と再会し仕事に誘われる。その仕事は殺しだった。新島は拳銃を手に入れるとき、写真を撮られていた。その写真が暴力団関係者の間に出回っていたらしい。ある日、新島は岩松を監視し、レポートを出せと組織の上の人間(大杉漣)に言われる。大杉漣が車に乗り、哀川翔が歩いているところに話しかける横移動撮影が、カメラを前後に行ったり来たりさせて面白い。哀川翔が引き返して後ろに戻ると、車をバックさせて大杉漣が追いかけてきて、カメラもバックさせて撮影し、また車の上部から身体を出して大杉漣が前へと向かい、カメラも前へと進む。その前後の移動の運動。
岩松が暴力団と接触しているのを組織に知られ、組の会長を殺せと組織のボス(菅田俊)に命令される。化石発掘に夢中の奇妙な組織のボス(菅田俊)と北島(哀川翔)の追いかけっこをロングの俯瞰のワンカットで撮影しているのも奇妙なシーンになっている。殺しの仕事がストレスだという岩松(ダンカン)は、なかなかその殺しの踏ん切りが付かない。代わりに俺がやると言った北島だったが、結局、岩松は会長の替え玉を殺すことで決着つけようとする。岩松の手下に若き阿部サダヲが出ている。事務所の中をいつもローラーブレードでグルグル回っている男だ。結局、ボスから岩松を殺せと命令された北島は、迷いながらも友人の岩松を殺すのだった。
ダンカンが出ているせいか、少し北野武映画にも似ている。無表情に淡々と拳銃で人を殺す場面が多いのだ。岩松の会社のメンバーで釣りをするシーンも面白い。何も釣れなくてただただ釣り糸を垂らす5人。殺しの仕事をしていながら、みんな虚無的であり、無表情なのだ。北島が家に帰ると、妻の中村久美が娘の亡霊を見て怯えているシーンもある。部屋に死んだ娘が立っていたり、白いシーツをまとった奇妙な人型のようなものも出てくる。最初に復讐した男を土に埋めたときも白いシーツの人型が草むらに立っていた。このようなホラー的な演出も少しある。いずれにせよ、復讐と言う目的の果たしたあとの虚無感、人を殺すことに感情を無くしていく暴力の連鎖が描かれる。ベンチに何度も一緒に座る新島と岩松。その虚無感が二人を惹きつけたのだろう。
1998年製作/83分/日本
配給:大映
監督:黒沢清
脚本:西山洋一、黒沢清
企画:武内健、神野智
製作:池田哲也
プロデューサー:土山勉、下田淳行
撮影:たむらまさき
美術:丸尾知行
音楽:吉田光
録音:井家眞紀夫
照明:佐藤譲
編集:鈴木歓
キャスト:哀川翔、ダンカン、大杉漣、菅田俊、寺島進、中村久美、梶原聡、阿部サダヲ、佐倉萌